レビュー

編集だよりー 2007年2月15日編集だより

2007.02.15

小岩井忠道

 「日本企業などが海外に持つ資産からの収益を示す所得収支の黒字が、モノの取引を示す貿易収支の黒字を2年連続で上回り、海外への投資で稼ぐ傾向がより鮮明になった」

 14日発表された2006年の国際収支速報について、日経新聞が同日の1面で伝えていた。

 当サイトは、昨年11月14日のレビュー「日本は金貸し立国?」で、この問題を取り上げている。そのときは「3半期連続で、所得黒字が貿易黒字を上回った」のだが、日本が、製品を作って輸出して稼ぐ国から、海外への投資で稼ぐ国へ変質しつつあることが、どうもはっきりしてきたようだ。

 翌15日の朝日新聞朝刊は、経済面で野口悠紀雄氏、寺島実郎氏という2人の論客を登場させ、日本の将来像を語らせていた。一時的現象とみなすわけにはいかなくなった、ということだろう。

 「額に汗を流すのではなく、頭を使って、適切な投資をする時代になった」と野口氏が明言しているのに対し、「モノをまじめにつくる人が正当に評価され、それが向上心を駆り立てるサイクルが重要だ」と寺島氏は主張している。

 ただし、その寺島氏も「日本の対外資産は巨額なので、所得収支の黒字が貿易収支の黒字を上回る現象は当分続く。国際収支は成熟型の状態に近づきつつあるのは事実だ」と言った上での発言である。

 ここでいう「成熟型」とは、80年代に米国、英国が“到達”している国際収支のタイプを言うらしい。貿易収支は赤字に転じたものの、所得収支が黒字のため、全体の経常収支はまだ黒字を保っている、という状態だ。要するに「モノづくり」国家から「金融」国家へ変質しつつある状態を“成熟”というらしい。

 「成熟型」の先に何があるか、について朝日新聞の図表が分かりやすい。米、英両国とも、いまや経常収支も赤字に転じており、所得収支だけが、からくも黒字を保っているのだ。

 イノベーション戦略の構築が今、日本の国家的課題になっている。日本も「モノづくり」より投資による収入の方が多い国になっているという事実は、こうした議論の中で考慮されるものなのだろうか。

 そんな二者択一の問題ではなく、モノづくりの裏付けあっての所得収支。イノベーション戦略さえうまく構築できれば、自ずからそんな問題は解決する、といわれたなら安心できる。

 しかし、そうなると、貿易収支が赤字になって久しく、かつ全体の国際収支(経常収支)も赤字に転落しているのに、所得収支だけは黒字という米国、英国には、どんな未来が待っているのだろうか。

 小心な人間は気になる。(日経、朝日新聞の引用は東京版から)

関連記事

ページトップへ