当初はわずかな研究費でスタートして10年余。北極海、南極海を含む広い海域の海洋汚染を観測した成果報告が、国立環境研究所の研究情報誌「環境儀」最新号に載っている。
地球規模の海洋汚染の実態を解明したのは初めて、ということだが、読みごたえがある。
報告によると、観測の対象になったのは、元々自然界にはなかった有害化学物質のヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)とクロルデン。HCHは、日本では1970年代まで農薬として使用されていた。クロルデンは白アリ駆除剤で、海洋汚染物質の中の残留性有機汚染物質の一つに指定されている。
1996年、大阪—那覇間を往復するフェリーに観測装置を積み込んで海水を採取、調べたところHCHは、低濃度ながらすべての観測地点で検出され、クロルデンも検出可能ぎりぎりの低濃度ながら、こちらもほとんどの観測地点で検出された。
2000年暮れから翌年2月まで、日本—ペルシャ湾を往復したタンカーに乗船した調査でも、採取したほぼすべての海水からHCHは検出された。
南太平洋および南極周辺海域調査(2004年)、地中海—北海—北極海—北大西洋の広域観測(2005年)、日米間を就航するコンテナ船による北太平洋の観測(同)など、観測海域を広げた結果でも、HCHが万遍なく検出された。
ただし、海域によって意外な結果もある。日本からオーストラリアにかけて太平洋を南北に縦断した観測では、HCHの異性体の一つだけが、日本から離れるほど低濃度になっていた。北太平洋の日本—北米間では、この異性体の濃度に差異はみられなかったのと対照的に。
全体的な傾向として、南半球は北半球に比べてHCHの濃度が低かった。
「大気の動きが海の汚染に大きく作用している」、「北半球と南半球間の汚染物質の移動は遅い」とこれまでにも言われていたことが、データによって実証された、と観測の中心となった研究者は言っている。