レビュー

編集だよりー 2007年2月2日編集だより

2007.02.02

小岩井忠道

 米映画「ドリームガールズ」を、日本記者クラブの試写会で観た。

 「妙なパワーが感じられた映画だなあ」。そんな感想を抱きながら、なじみの店に寄って一杯、となったところ、先にいた初対面の客が「ああ、ダイアナ・ロスとスプリームスをモデルにした映画ね」という。スプリームス(歌手グループ名らしい)というのは知らなかったが、ダイアナ・ロスなら知らないことはない。

 なるほど、まるっきりのフィクションではなかったのか、といくつかのシーンが思い返された。

 「プレスリーのハウンドドッグだって、(黒人の)○○が歌っていた曲だよ」。自分が作曲した曲が、白人歌手にパクられてしまったことを知って怒り狂う作曲者を、兄貴格のマネージャーがなだめる。黒人がつくりだした音楽を、白人が次々に横取りしていった、という台詞もあった。

 無名の黒人女性グループがスターに上り詰める。本筋が華麗に描かれる合間に、キング牧師のノーベル平和賞受賞や、デトロイト暴動といったシーンも挿入されていた。

 帰宅後、たまたま持っていたダイアナ・ロスのCDの説明文と、試写会でもらったプログラムを読み比べてみた。「IF WE HOLD ON TOGETHER」という曲が好きという理由だけで、だいぶ前に購入したCDだから、ほかの曲は聴いてなく、説明文にも全く目を通していなかったのである。

 それで、映画のいくつかの場面が、さらなるリアリティをもって思い出された。

 「おまえの声は特徴がないから、俺が機械で操作してやっているのだ」。3人組女性グループのリード・ヴォーカル(このモデルがダイアナ・ロスということらしい)に向かって、夫でもあるやり手マネージャーが、投げつける台詞である。

 女性グループの最初のリード・ヴォーカルは、歌唱力ははるかに上だったのに、見栄えのよい主人公と交代させられ、結局、グループからも追い出されてしまう。大スターへの道を駆け上った主人公の姿と並行して描かれている、敗者の対照的な生活ぶりが、この映画に奥行きを与えているのだろう。

 CDの説明文には、この重要な脇役のさらに悲劇的な末路が書かれていた。アルコール中毒になり、若死にしてしまったそうだ。

 さすがに映画では、彼女をそこまで落とし込まず、観客の気分をなごませる結末を用意しているのだが。

 あれこれ考えたついでにダイアナ・ロスのCDの曲も残らず聴いてみた。どうにも退屈な曲ばかりで、何より飛び切りいい声には聴こえない。

 映画と、この説明文のせいだろう。

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