宇宙開発委員会の推進部会は1月30日、月探査衛星「LUNAR-A」プロジェクトを中止する報告案を取りまとめた。
「LUNAR-A」は、地震計や熱流量計などを収納した観測機器「ペネトレータ」を月面に突入させ、月内部の構造、組成などを観測しようという世界でも前例のないプロジェクトだ。
しかし、「ペネトレータ」の開発に手間取り、打ち上げ時期は5度にわたり延期され、計画そのものが当初より10年以上遅れてしまっている。衛星本体に劣化が生じた結果、この対応に80億円近い費用が新たに必要となること、仮に衛星をリフォームしてもミッションを無事達成できるか疑問との見方が強まったことが、中止の理由となった。
推進部会は、ペネトレータは月や他の惑星の探査に使えることから開発を継続させるものの、「LUNAR-A」プロジェクトそのものは中止させるべきだ、という結論を出した。報告案は、7日開催の宇宙開発委員会で報告され、了承されるもようだ。
今回の評価は、厳しい宇宙開発事情を考慮すると妥当なものといえよう。このプロジェクトを推進する宇宙航空研究開発機構自体が、中止を打診してきたことからもうかがえる(1月10日付、同機構報告書参照)。
問題は、この判断がなぜ今、なされたかということだろう。部会のある委員は「各審査段階で、ペネトレータの開発が計画通り進んでいなかったのは分かっていたはず。その時点で、衛星の寿命をきちんと予測していれば、今日まで、この計画が引き延ばされることはなかった」と厳しく非難している。宇宙航空研究開発機構の体制そのものにも注文が相次いだ。
こうした意見に対する同機構の釈明は「チーフエンジニアリング・オフィス」の存在。H-ⅡAロケットの打上げ失敗などを受けて、より確実にミッションを遂行できるよう、2005年10月に新設された。組織横断的にシステムズエンジニアリング能力を強化させるほか、同機構理事長の指示により、プロジェクトを再評価し、必要な場合は計画の中止を意見する権限も持つ。
今回は、このチーフエンジニアリング・オフィスが機能した。しかし、一昨年にできたばかりのオフィスが、LUNAR-Aプロジェクトの再評価を、もっと早い時点で行うことはできなかった、という。
同機構の説明を受けた推進部会は、引き続き、こうした取り組みが行われ、また、プロジェクトの節目ごとに意思決定が行われるよう報告書案に盛り込み、組織的取り組みを強化するよう助言した。
推進部会が継続を認めたペネトレータの開発には、さらに3年程度かかるということだが、これを将来、きちんと活用できなければ、今回の見直しの意義も問われることになる。