レビュー

編集だよりー 2007年1月26日編集だより

2007.01.26

小岩井忠道

 「太陽光をマイクロ波に変換することができる人工衛星を打ち上げ、マイクロ波を地上で受けることにより、地上で太陽光をクリーンで効率的なエネルギーとして利用する宇宙太陽光発電の技術開発が行われる」

 日本学術会議が25日に公表した報告書「科学者コミュニティが描く未来の社会」(26日ニュース参照)の中に、こんな記述があった。

 2025年の「目指すべき社会と推進すべきイノベーション」の1例として挙げられている。

 昔からある宇宙開発のアイデアだから、新聞や雑誌で目にしたことがある人も多いのではないか。2025年までには無理かもしれないが、という趣旨の文脈の中で出てくる「夢」である。だから、この部分だけを取り上げて、実現性をうんぬんするのは適当ではないかもしれない。

 そこで、最近耳にした話を一つ二つ紹介したい。

 昨年12月16日に日本学術会議が主催した「エネルギーと地球温暖化に関するシンポジウム」というのがあった。内外の著名人が参加したが、ノーベル物理学賞受賞者で米ローレンス・バークリー国立研究所長でもあるスティーブン・チュー氏が、宇宙太陽光発電についてコメントしていたのを思い出す。

 議論の対象外、といわんばかりの冷たい評価だった。

 では、チュー氏が何について多くの言葉を費やしていたかというと、バイオエネルギーである。

 多年草(具体的にどういう植物かは不明)を植えて、それからエタノールをつくれば、化石燃料の代わりになり、その結果、二酸化炭素の排出を減らすことが期待できるという話である。

 日本と違って、米国には土地はたくさんある。米国が必要とする以上の農作物を作ることは、途上国の大事な農作物輸出を妨害することにもなり、エタノール用の多年草を植えた方が、途上国にも喜ばれる、というのである。

 土地が広いと言っても、米国内で果たしてどの程度のエタノール生産ができるものか、半信半疑で話を聞いた。

 さて、数日前、ある会合で知り合った自動車メーカーの技術者に聞いた話である。将来、日本の自動車の燃料をすべて植物から生産するエタノールでまかなうとしたら、どの程度の土地が必要か。データがないので、社内で、実に大まかな計算をしてみたのだという。

 遺伝子組み替えで、超促成作物(1カ月で2メートルぐらいに育つ)ができたとする。セルロースも含めて、ほとんどエタノールに転換できるとしたら、どのくらいの土地が必要か、という計算だ。

 答えは、250キロメートル四方、ということだったという。

 日本では無理だろうが、米国その他の国なら、ひょっとして非現実的な広さではないのでは。遺伝子組み換えで、そんな育成効率のよい植物が作れるかという不確かさがあるにしても。

 そう思ったところ、荒削りの試算をしてみた自動車メーカー技術陣の受け止め方も、同様だったそうだ。百%エタノールを燃料にする自動車エンジンの開発も、それほど非現実的な話ではないかも、と元気が出たそうだ。

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