レビュー

編集だよりー 2006年12月28日編集だより

2006.12.28

小岩井忠道

 暮れになると、新聞各紙の学芸欄には、ことし評判になった本の名前がずらりと掲載される。各紙の書評を担当する評論家や学者、作家が、これぞと思う「ことしの3冊」を挙げるわけだから、相当な水準だろうと思われる著作しかない。

 さて、昨年までは、各紙がかかげる本の名前を眺めながら「なるほど」とうなずくことはあった。実際に読んだ本は数えるほどだが、各紙の書評欄だけは、丹念に読んでいたからだ。

 ところがである、今年はどの新聞を見ても、読んだ本どころか、題名だけでも知っているという本がほとんどない。書評欄もきちんと見ないような余裕のない年をすごしてしまったのか、と少々反省する。単にずぼらになっただけ、かもしれないが。

 1冊だけ、読売新聞に覚えのある本が載っていた。櫻井孝頴氏(第一生命相談役)が薦めていた「複眼の映像—私と黒澤明」(橋本忍著)だ。実は、だいぶ前に購入していたのに、これも途中まで読んで、そのままになっている。あわてて、読んだ。

 「羅生門」と「七人の侍」のシナリオが、橋本氏と黒澤監督のいかに激しい“格闘”の末にできあがったか、それ自体、ドラマのようなおもしろさであった(「七人の侍」には、小國英雄氏もシナリオ作成に加わる)。

 印象に残った個所はいくらでもあり、いくつかここでも紹介しようかと思ったが、念のため、晩年の黒澤監督をよく知る友人に、感想を聞いてみたら、評価はまるで逆である。

 「自分の想像で書いたところがあまりに多すぎる」ということらしい。

 となると、真実の黒澤監督像というのは? まさに「藪の中」ということだろうか。

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