レビュー

編集だよりー 2006年12月14日編集だより

2006.12.14

小岩井忠道

 ザビーネ・マイヤーのソロとNHK交響楽団によるモーツァルトのクラリネット協奏曲を昨夜、サントリーホールで聴いた。今度もまた当サイトの編集アドバイザー(編集分科会委員)G氏の顔のおかげで、ご相伴となった次第である。

 この曲を生で聴くのは初めてだ。マイヤーという女性奏者も初めて知ったが、登場したときから、目を引いた。

 今回は、普通のクラリネットと異なる「バセット・クラリネット」(より低音部まで出る)での演奏ということで、当然、普通のクラリネットよりだいぶ長く見える。彼女の容姿がまた、バセット・クラリネットみたいだった。すらりと細く、長い。

 冒頭、ソロが入るまで結構長いオーケストラの演奏中、まずは第1バイオリン奏者たちの方をしばし悠然と見やって、今度は、後ろのビオラ奏者たちをながめながら、演奏に合わせて軽く体で調子を取っている。

 「なかなかいい音が出てるわよ」てな感じである。

 モーツァルトのクラリネット協奏曲は昔から好きだったこともあって、すっかり堪能したが、演奏を聴いて、とりわけ感心する個所が何度もあった。ひょっとして楽譜にはないのではないか、と思われるような音が、頻繁に出てきたからだ。

 帰宅して、水割りを飲みながら、会場で買い求めた彼女のCDと、たまたま前から持っていたCDを聴き比べてみた。もともと持っていたCDは、演奏家の名前など気にしていなかったので、あらためて確かめたら、クラリネット奏者はミシェル・アリニョンという人で、オーケストラは、パイヤール室内管弦楽団である。

 2つのCDをとっかえひっかえ繰り返し聴くことしばし、ようやく1個所だけ、マイヤーの演奏がアリニョンと明らかに異なるところを見つけた。歌謡曲でいうと、“こぶし”のようなと言ったら不適切だろうか。とにかく、アリニョンの演奏にはない音が挿入されていた。

 一仕事終えた気分で、寝床について、すぐ反省した。こんな聴き比べをするなどという生意気な行為は、これ限りにしよう、と。音楽は好きだけれど、上等な鑑賞者とはいえない人間には向いていないから。

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