レビュー

編集だよりー 2006年12月12日編集だより

2006.12.12

小岩井忠道

 早朝のTBSラジオ番組「森本毅郎スタンバイ」は、昨日に続き、巨人を退団した桑田真澄投手のインタビューを流していた。

 「○百万円くらいしかもらえないでしょうが、お金の問題ではない」。聴き間違いかな、と一瞬思ったが、その前に「1000万円もいかない…」と確かに言っていた。年棒が6百万円とか7百万円だろうと、どうしても大リーグに行きたい、という強い気持ちを披歴したのだろう。

 すでに一昨年、出るたびに途中降板、それも序盤に早々と大量点を奪われて、という状態が続いたころ、電通のスポーツマーケティング局で働く友人に聞いた話を思い出す。「桑田選手は人望があり、打たれ続けてもチームメートのだれも文句を言わない」というのだ。

 森本毅郎氏の質問に対する堂々とした答えに、納得した。

 2日続けて、桑田選手の話に耳を傾けたのは、ひょっとして古武術研究家、甲野善紀氏の話が出ないか、関心があったためだ。5年前にも極度の不振から一度は引退も考えたという桑田投手が、2002年のシーズンで奇跡的とも思われる復活を遂げ、最優秀防御率のタイトルを取ったことがある。その時、取り入れたのが、甲野善紀氏の教える古武術に学んだ新しい投球法、ということを知る人は少なくないと思う。

 甲野氏について初めて新聞記事で知ったとき、まさかと思ったことがある。「武士は、左足を出したときに逆の方の右手、右足を出したときは左手を出すのではなく、同じ側の手と足を一緒に出す走り方をしていた」と語っていたからだ。

 いまは、相当程度、理解したつもりでいる。よく考えてみると、編集者が少年時代に熱中したバスケットボールの動きは、まさに甲野氏の話に合致しているからだ。ボールを投げるときは、まず投げる方の腕と肩をぐっと後ろに引いて、と普通は考える。しかし、ジャンプシュートもレイアップシュートも、シュートする方の腕、肩を後ろに引くということはないのである。パスも同じだ。足の動きも同様で、前方に出すのはシュートする腕と同じ側の足、というのが基本である。

 パスする時に「ひじは横腹から離さない」あるいは「脇を固めて」といったことを教えられ、その通りにしていたが、これも「肩甲骨を背中の中央に寄せる」(光文社新書「ナンバ走り—古武術の動きを実践する」)ことに他ならないわけだ。腕や肩を後ろに引くのではなく。

 いったん復活した桑田投手が、長続きしなかったのはなぜか、大リーグ行きで、再度の復活はあり得るのだろうか。甲野氏にその後も教えは乞うているのだろうか。

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