レビュー

米国の原子力政策転換はなぜ

2006.06.16

 インドは、核不拡散条約に当初から反対しており、いまだに条約に加盟していない。3月、そのインドをブッシュ米大統領が訪れ、原子力協力について合意している。

 それに先立つ2月、米国は国際原子力エネルギーパートナーシップ(GNEP)という新構想を発表した。

 日本のように濃縮や再処理といった核燃料サイクル事業をすでに進めている国と、原子力発電だけをやる(核兵器につながる濃縮や再処理はしてほしくない)国に分けて、原子力の平和利用と核不拡散を両立させようという新しい国際枠組み作りである。

 再処理はやらないといってきた国内政策も大転換する構想だ。

 インドとの原子力協力や、再処理路線への変更をなぜ、しなければならないのか?この疑問を解くヒントを与えてくれるルポが、14日の産経新聞国際面に載っている。ネバダ州ユッカマウンテンにある高レベル放射性廃棄物処分場を見学した気仙英郎記者の記事だ。

 「処分場では、廃棄物を積んだ列車がそのまま入れる約8キロのメーン・トンネルが完成」し「最終的には、メーン・トンネルから横に多数のトンネルを掘って、そこに廃棄物を貯蔵することになる」。

 完成時の「処分能力は77,000トン」。

 しかし「1987年の調査開始から約20年たつが、いまだに完成のメドが立っていない」。しかも「ネバダ州政府は、国と議会がゴーサインを出したユッカマウンテンの処分場決定に反対」したままだという。

 一方、米国に120以上ある原子力発電所には「使用済み核燃料だけで約55,000トンがそれぞれの敷地内に貯蔵」されており、核兵器工場からの廃棄物を合わせると「すでに計7万トンの高レベル放射性廃棄物が行き場のないまま保管されている」というのである。

 要するに「すでに貯蔵能力いっぱいの廃棄物が存在する計算だ」。

 以上の計算は、使用済み燃料はそのまま処分するという米国のこれまでの政策を前提にしており、再処理をするとなると話は異なる。

 再処理、プルトニウム利用路線をとる日本などと異なり、米国はこれまで使用済み核燃料を高レベル放射性廃棄物と見なしてきた。

 結局、これまでの政策を続けて行けば、使用済み核燃料をすべて処分できる場所の確保で早晩、行き詰まる。しかし、再処理をすれば「高レベル放射性廃棄物の容量は5分の1になる」。

 米政府の政策転換の根底にはこうした国内事情があることが、この記事からも十分うかがうことができる。この構想どおり、ことがすんなり進むかどうかは、また別の問題として。(注:東京本社版の記事から)

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