レポート

人間とロボットのより良い関係は? 文化人類学者と日本科学未来館の特別展を巡って考える

2022.07.21

宇佐見靖子 / SDGsライター

 「ロボット」と聞いて何を思い浮かべるだろう? 自動車工場の組み立てロボットといった産業用にとどまらず、おなじみのお掃除用や「今日の天気は?」と聞くと教えてくれるコミュニケーション型まで、今ではすっかりその存在は私たちの暮らしに溶け込んでいる。この先、人間とロボットはどんな関係を築いていくのだろうか。日本科学未来館で開催されている特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」を、トルコ出身の文化人類学者ケミクスィズ・アスルさんと巡りながら考えた。

高所作業を思い通りに行えるロボット「零式人機(れいしきじんき)ver.1.2」とケミクスィズ・アスルさん
高所作業を思い通りに行えるロボット「零式人機(れいしきじんき)ver.1.2」とケミクスィズ・アスルさん

どのようにして生まれたのか

 特別展に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、壁一面にずらりと描かれた「ロボットと人間のあゆみ」だ。科学技術の進歩といった視点に加え、ロボット開発にSF作品が深く関わっていたなど、人間とロボットの多様な接点について記されている。

 「ロボットという言葉は、1920年、チェコスロバキア(当時)の作家カレル・チャペックが書いた戯曲『R.U.R.』の中で初めて使用されました。その語源は、チェコ語で『労働』を意味する『robota(ロボタ)』。資本主義を批判したこの戯曲で、ロボットは人に代わって労働するモノとして扱われています」。展示を見ながら、アスルさんはそう教えてくれた。

ロボットと人間が歩んできた歴史について語るアスルさん(左)と日本科学未来館の科学コミュニケーター園山由希江さん(右)。園山さんは今回、アスルさんと一緒に展示を巡り、ロボットと人間の関係について新たな気づきも得たという
ロボットと人間が歩んできた歴史について語るアスルさん(左)と日本科学未来館の科学コミュニケーター園山由希江さん(右)。園山さんは今回、アスルさんと一緒に展示を巡り、ロボットと人間の関係について新たな気づきも得たという

 人間に服従するものとして扱われたロボットに対する考え方は、その後、1950年にアメリカのSF作家アイザック・アシモフが『アイ・ロボット』で、ロボットが人間に逆らわないために記したロボット三原則などにも表れた。

 「ロボットは人間になりたくても人間になれないという視点で描かれる西洋のSF作品に比べ、日本では鉄腕アトムやドラえもんのようにスーパーヒーローであり、無限の可能性があるものとして登場します。その見方に興味を持ち、日本でロボットと人間の在り方について研究したいと思ったのです」。アスルさんは来日のきっかけについて話してくれた。

 そして一人の文化人類学者として、アスルさんは人型ロボット開発の実験室をフィールドワークの現場とし、研究者らがロボットを造る過程を丁寧に調査しながらロボットと人間の在り方、特にロボット工学における人間性を研究してきた。

人間をより深く知るために造る

 ソフト・ハード両面での技術革新などにより、2000年初頭、人間とコミュニケーションできる人型ロボットの開発が進む。これはロボット大国日本が大きくけん引した。ロボットと人間の歩みを記した年表の前には、1973年に日本が生み出した世界初の人型知能ロボットWABOT-1(ワボット-ワン)をはじめ、日本発の人型ロボットがずらりと並ぶ。「こんな機会はめったにないです」とアスルさんは声をあげる。

日本のロボット開発の第一人者である故加藤一郎教授を中心に開発された、世界初の人型知能ロボットWABOT-1(ワボット-ワン)
日本のロボット開発の第一人者である故加藤一郎教授を中心に開発された、世界初の人型知能ロボットWABOT-1(ワボット-ワン)

 2010年以降は、ディープラーニング(深層学習)の発達により、ロボットはますます自律性を身に付け、もはや服従するモノではなく人間の存在を根本から揺るがす存在になっていった。人間を支配するロボットが登場するSF映画やアニメーション作品が数多く誕生していることでもわかる。

 また、それらの作品はさらなるロボット開発にも影響を与えた。そして、ロボットを開発する一部の工学者たちは、ある欲求に突き進んでいくことになる。それは「人間をより深く知るために、人間と同じ機能を持つロボットを造ること」だ。

スピード優先、技術の先走りに警鐘

 この特別展には、国内展覧会史上、最大規模となる約90種130点のロボットが並ぶ。高所作業を行えるロボット「零式人機ver.1.2」では、実際にVRゴーグルを装着して高さ3.5メートルの視点が体験でき、まるで自分がこの巨大ロボットに変身したかのような気分だ。人の存在とは何かをロボットを通じて研究する大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒浩教授が生み出した、本人そっくりの対話できるロボットの姿に、人間とロボットの境目がわからなくなった。

 展示メインゾーンは「からだ」「こころ」「いのち」の3つのテーマからなり、人間とロボットの関係について、私たちにさまざまな問いを投げかける。

 ロボットを通じて自由自在に動くことができるなら、人間の「からだ」は何なのか。さまざまな人間の感情に寄り添うロボットに「こころ」はあるのか。死後、ロボットとして復活できるなら、人間は永遠の「いのち」を手に入れることができるのだろうか。

(左)「からだって、なんだ?」には、人間の行動の可能性を広げるロボットが並ぶ (右)「こころって、なんだ?」には、石黒浩教授が開発した本人に酷似した見かけを持つ2体のアンドロイドがある
(左)「からだって、なんだ?」には、人間の行動の可能性を広げるロボットが並ぶ (右)「こころって、なんだ?」には、石黒浩教授が開発した、本人に酷似した見かけを持つ2体のアンドロイドがある
(左)災害救助や介護現場などでの実用を目指して開発された、成人とほぼ同じ大きさの人型ロボットKaleido(カレイド) (右)人とのふれあいで成長する自律型エンターテインメントロボットのaibo(アイボ)。人間のこころとロボットのこころ、違いって、何だろう
(左)災害救助や介護現場などでの実用を目指して開発された、成人とほぼ同じ大きさの人型ロボットKaleido(カレイド) (右)人とのふれあいで成長する自律型エンターテインメントロボットのaibo(アイボ)。人間のこころとロボットのこころ、違いって、何だろう

 人型ロボットを造る過程で、新しい技術や次の研究へのヒントが生まれることも想定されるなか、「人間は複雑なもの。だから技術を追求するだけでなく、ロボットを造りながら、医学、社会学、心理学、文化人類学などさまざまな分野とつながりを持つことも重要です。そのうえで、ロボットと人間の関係を理解し、さらに考える必要があります。ロボット工学の分野は比較的新しく、研究者も圧倒的に男性が多い。技術開発の過程で、女性やマイノリティの意見をもっと取り入れることも大事」とアスルさんは独自の視点で指摘する。世界では、ジェンダーバイアスがロボット開発に与える影響について議論になっているのも事実だ。

 そして警鐘を鳴らす。「今、ロボット開発はスピードが優先され、次から次へと試験的に製造された新しいロボットが生まれています。技術だけが先走りし、人間がそのロボットにどう対応すればいいのか準備できていないのが現状。もっと時間をかけてロボットと人間の関係を考えるべきです」

可能性は無限に広がる

 では、これからの人間とロボットの関係を考えるため、私たちにとってロボットは一体何だと理解すればいいのだろうか。

 「ロボットという定義はそもそもとてもあいまいですし、これからも移り変わっていくと思っています」と言い切るのは、この特別展を企画した日本科学未来館の科学コミュニケーター園山由希江さんだ。「ロボットはさまざまな形で社会の中に存在し、人間と相互に影響し合う。人間とロボットの関係は時とともに移り変わるのです」。

 展示の最後には、人間とロボットがどんな未来を築いていくのか、さまざまな仮定が体験できる空間がある。「アバターロボットで家にいながら世界旅行ができる」「あまりにも忙しいので腕を2本拡張した」「デジタルクローンとして生まれ変わった」―無限の可能性が広がる人間とロボットの関係、それは私たち一人ひとりのロボットとの付き合い方次第とも言える。

 さて、あなたはロボットと、どんな未来をつくっていきたいだろうか?

【特別展】「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」
会期:2022年3月18日(金)〜 8月31日(水)
開館時間:10:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜(ただし7月26日~8月30日の火曜は開館)
会場:日本科学未来館(東京・お台場)1階 企画展示ゾーン
主催:日本科学未来館、朝日新聞社、テレビ朝日

ケミクスィズ・アスル(Kemiksiz Asli)

文化人類学者。トルコの大学で国際関係論とカルチュアル・スタディーズを学んだ後、2012年に来日。現在、大阪大学大学院人間科学研究科博士研究員。「科学技術の文化人類学」という観点から、ロボットと人間の在り方について研究してきた。現在の研究テーマは人新世(アントロポセン)における海の生物多様性の絶滅について。今後は、文化人類学者として培ったエスノグラフィー(参与観察調査)の手法を生かしたコンサルティングも手掛けていく予定。

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