レポート

温暖化したら降雪・積雪はどうなる? ~サイエンスアゴラ2021講演会から~

2022.01.13

池辺豊 / サイエンスポータル編集部

 日本雪氷学会の関東・中部・西日本支部は科学イベント「サイエンスアゴラ2021」で2021年11月6日、「温暖化時代の雪と私達の暮らし ~雪氷研究の最前線から〜」と題する講演会をオンラインで開いた。先週、1月6日に首都圏が雪に見舞われ、東京に4年ぶりの大雪警報が出たことは記憶に新しい。地球温暖化に伴って降雪と積雪の状況がどう変わるかは、日本人の暮らしに直結する関心事だ。若手の専門家が最新の研究成果をもとに解説した。

講演した(上段左から)橋本明弘氏、庭野匡思氏、(下段左から)川瀬宏明氏、永井裕人氏(オンライン画面から)

降雪粒子にさまざまなタイプ

 トップバッターは気象庁気象研究所の橋本明弘主任研究官。雲と降水の数値モデリングを手がけており、3通りある降雪の仕組みから切り出した。一つ目はいわゆる冬型の気圧配置でみられ、シベリアからの寒波が暖かな日本海で水蒸気を吸い込み、山などに雪を降らせる。二つ目は2方面からの寒気団の合流による収束。雪を大量生産するという。

 これらは日本海側の降雪に関するものだが、太平洋側では西から東に移動する南岸低気圧が降雪をもたらす。先週のように関東地方などに大雪が降る典型的なパターンを示した。このように、日本海側と太平洋側とでは雪の降り方に大きな地域差があり、さらに降雪粒子にはさまざまな種類があると指摘した。

 降雪粒子は水蒸気が粒子表面に着いたり、粒子同士がくっついたりして成長する。微細な水滴が粒子表面で凍るとあられになり、地域に応じてでき方は変わる。同じ低気圧でも進行方向の前面と後面とでは粒子のタイプが異なるため、「降雪粒子の特徴が雪崩などの災害に深く関わることもある」と語った。

温暖化につれ、雪が高密度に

 次いで、気象庁気象研究所の庭野匡思主任研究官が、グリーンランドの観測所からの遠距離通信で登場した。雪の観測とモデル研究が専門。降った新雪が積もりつつどのように変質していくかを描くモデルを作っており、現在は気象庁の防災情報に役立てられている。将来はもっと精細なものにして成果を還元させたいと述べた。

 世界における積雪の変化も解析している。全球平均の2倍の速さで温暖化している北極域では、1982年から2013年にかけて積雪の期間が欧州と中央アジアで減少した。グリーンランドは厚い氷床なので見かけに変わりはないが、雪氷の質量は25年間で約4兆トン減っており、海面上昇に12ミリほど寄与しているという。

 積もった雪を細かくみると、温暖化につれて雪の密度が大きくなっている。「皆さんも重い雪を実感しているのでは」と呼びかけた。グリーンランドでは1980年以降、雪ではなく降雨量が増えているという自己の研究を披露。北極の変化が中世温暖期のような海面上昇となり、われわれの暮らしに影響が及ぶ可能性に言及した。

シミュレーションでは「全国的に雪が減る」

 3番手は富山県の立山から参加した、気象庁気象研究所の川瀬宏明主任研究官。雪の観測や降雪シミュレーションを手がけており、講演会のタイトルずばりの「地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題」という著書がある。まず、「人間の影響による温暖化は疑う余地がない」とする国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書を紹介した。

 温暖化に伴い北日本や東日本の日本海側では雪が減っている。将来どうなるか、天気予報の数値モデルに類似した気候モデルを使い、太陽や火山など自然起源由来の要素を仮定。温室効果ガスやススなど人類起源の要素を想定して日本付近をシミュレーションしたところ、全国的に雪が減ることが分かった。

 もっと細かくみると、北海道や中部山岳地方では1月や2月に増える。北海道の日本海側では降雪のピークが12月から翌年2月にずれるかもしれない。雪がまとまって降るドカ雪は北海道や本州の山沿いや内陸で増える可能性があり、「日本海がより暖かくなることが原因」と結んだ。

衛星データ積極活用の時代へ

 最後に、司会も務めた早稲田大学の永井裕人講師が講演した。地球観測衛星のデータを利用し、平野部の積雪や除雪の状況を紹介した。衛星から地上に向けてマイクロ波を送信すると、雪の状態によってさまざまな反射波が生じる。それを受信して雪の深さを調べることができるという。

 新潟県では2017年度に135億円の除雪費用がかかり、地方財政上の負担になっている。重機の燃料代や人件費だ。事故を防ぐためにも除雪は欠かせない。自身は衛星データから積雪の深さを示すマップ作りに携わっている。除雪ルートを最適化すると、無駄のないスマートな除雪が期待でき、地方財政の軽減につながる。

 山の流域に雪がどこにどれだけあるかは雪解け水の利用などで重要だ。将来は観測用車両の自動運転で、ルート上の積雪が分かるかもしれない。衛星だと現地での観測よりも、はるかに細かい状況把握が可能になる。「温暖化で雪の降り方は変わるだろうが、宇宙から当たり前のように積雪を観測する時代がやってくる」と力説した。

 サイエンスアゴラは科学技術振興機構(JST)が毎年、開催している。日本雪氷学会は2014~17年と19年に参加し、体験企画「雪の重さってどのくらい?」を実施。20年には講演会「変わりつつある日本の雪と雪崩災害」をオンラインで開催した。

関連記事

ページトップへ