レポート

《JST主催》世界をリードする科学技術人材目指し、高校生が成果発表と交流—「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)平成30年度全国受講生研究発表会

2018.11.08

大槻肇 / 理数学習推進部長

 次世代の科学者育成を目指す「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」の平成30年度全国受講生研究発表会が10月7日、8日の2日間、日本科学未来館(東京都江東区)で開催された。発表会ではさまざまな研究成果の発表があったが、受講生同士が交流を深めるなど有意義な2日間となった。

全国16大学から約90人の高校生が参加

 GSCは、世界をリードする科学技術人材の育成を目指して、科学技術振興機構(JST)理数学習推進部と全国の大学が連携して平成26年度に始まった。現在は全国15の大学で実施されており、約900人の高校生が受講し、高度な学習やさまざまなテーマを定めた研究活動に取り組んでいる。今年で5回目となる発表会には、15の大学のほか、平成26年度採択機関である東京理科大学が参加。各大学から選ばれた受講生約90人が38件のポスター発表を行った。

 開会に際してJSTの真先正人理事は、「受講生の皆さんには、相互に大いに刺激し合い、自分が興味をもった道をとことん信じて、頑張って欲しいと思います。また、日頃なかなか付き合う機会がない分野の人や地域の人ともぜひ交流を深めてください。まったく違う発想の刺激は、自分の研究にも大いに生きてくると思います」とあいさつした。

 初日の研究発表は時間を区切ったポスター形式で行われた。大学教員など総勢約50人が分野ごとに展示されたブースを回り、質疑応答を繰り返しながら慎重に審査した。審査の後には交流会の時間が設けられた。各地から参加した受講生たちは、初対面にもかかわらず積極的に会話したり、自作の名刺を交換するなどして交流を深めていた。初日の最後には、2日目の口頭発表に進む上位10組が発表され、会場は大いに盛り上がった。

初日のポスター発表の様子
初日のポスター発表の様子

 2日目は、前日のポスター発表で優秀な成績を収めた上位10組が口頭発表し、最終審査を待った。昼食休憩の後、オリィ研究所 代表取締役所長・ロボットコミュニケーターの吉藤健太朗さんが講演した。吉藤さんは「皆さんに伝えたいことは、“物事や生き方に正解はない”ということです。今はレールが敷かれている世の中ではありません。自分が何をしたいのかをひたすら考え、自分の人生を自分でつくっていくのです」と生徒たちに語りかけた。吉藤さんは2004年にJSTが支援する課題系コンテスト「高校生科学技術チャレンジ(JSEC2004)」で文部科学大臣賞を受賞し、日本代表として翌年国際大会(Intel ISEF2005)に出場。同大会でグランドアワードのグループ研究部門第3位となった。これがきっかけとなり、人工知能(AI)の研究を経て、ロボットでコミュニケーションするという研究に着手し、分身ロボット”OriHime(オリヒメ)“を発明している。「ベッドの上で動けない人も、分身ロボットがあればインターネットで世界の人とつながることができます。会いたい人に会えて、行きたいところに行けて、社会参加ができる時代です」。吉藤さんは具体的な事例を紹介しながら、科学技術の可能性を語った。

2日目の口頭発表
2日目の口頭発表
オリィ研究所代表取締役所長/ロボットコミュニケーターの吉藤健太朗さん。「サイボーグ時代の人生設計」と題した講演会で、科学技術の可能性を高校生へ伝えた
オリィ研究所代表取締役所長/ロボットコミュニケーターの吉藤健太朗さん。「サイボーグ時代の人生設計」と題した講演会で、科学技術の可能性を高校生へ伝えた

大学の先生や他校の生徒との対話を通じて研究を深める

 最終審査は、次世代の科学者に求められる科学的探究能力の獲得度合いや、研究の専門的達成水準のほか、研究の意義や研究成果による貢献内容を適切に説明できるか、などが主な評価ポイントとなった。審査は厳正に進められた。その結果、文部科学大臣賞1件、科学技術振興機構理事長賞1件、審査委員長特別賞2件、優秀賞6件が決まった。

受賞者の皆さん
受賞者の皆さん

 文部科学大臣賞を受賞したのは、静岡大学受講生の袴田彩仁さん(静岡市立高等学校2年)。発表テーマは「BR反応における新しい振動の発見」。

 BR反応(Briggs Rauscher反応)は、ヨウ化物イオンとヨウ素が繰り返し生成する振動反応の一種で、ヨウ素デンプン反応を利用して、無色の溶液と濃い青紫色の溶液が繰り返し現れる点に特徴がある。

 この研究をしようと思ったきっかけは、「メカニズムが解明されていないBR反応について、大学の設備や教授の話を聞きながら、もっと深く研究したいと思った」ことだったという。また得られた成果について袴田さんは、「GSCでは情報量や専門知識の深さや幅が違います。大学の先生だけではなく、他校の生徒や先生とのディスカッションができるのも、研究を深める上でとても貴重です。これからもBR反応のメカニズムや発見した振動について、より詳しく解明していきたいと思います」と今後の抱負を嬉しそうに語っていた。

文部科学大臣賞を受賞した袴田彩仁さん。「先生に質問した場合も、自分が納得できること、理解できることが大切。自分がその研究を一番わかっている人でなくてはならないと思う」
文部科学大臣賞を受賞した袴田彩仁さん。「先生に質問した場合も、自分が納得できること、理解できることが大切。自分がその研究を一番わかっている人でなくてはならないと思う」

 「グローバルサイエンスキャンパス審査委員会」の坂口謙吾委員長は今回の研究発表会の総評で、「年々研究内容が高度になってきているが、今年は最も高いレベル」と、受講生の成果を高く評価した。また、参加した受講生に対しては、「日本を代表する科学者、研究者になっていく皆さんが高校時代から知り合うことはとても大切です。高校生が大学を見るという貴重な機会もGSCでは得られる。もっと周りの仲間たちに大学の情報を教えてあげてください。GSCを全国に拡げていってください」と呼び掛けた。

 最後に真先理事が、「心掛けて欲しいことは、いろんな世界に臆せず飛び込んでいってもらいたいということです。羽を広げ、視野を広げて、いろんな人との出会いを大事にしてください。また自分の専門知識に近いところではなく、あえて違う分野に飛び込んでみる、といったことも大切だと思います」と受講生を励ます言葉を贈って今年度の発表会は終了した。

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