英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。
「英国大学事情2016年第4号」にて、英国大学協会が2015年9月に発表した2013・14年度のデータに基づいた「2015年度・英国大学統計資料」を紹介したが、それから約2年が経つため、同協会が2017年10月に発表した「Higher Education in Facts & Figures 2017」から一部を抜粋して、最新版の英国高等教育統計資料を紹介する。
1. ハイライト
* 学士課程学生の14%、大学院学生の38%及びアカデミック・スタッフの29%は外国籍である。
* 英国の大学に対する学生の全般的満足度は84%に達した。
* イングランド地方の大学進学率が伝統的に低い地域において、18歳の若者の大学進学希望者数は過去最高の水準となった。
* 大学の全収入の内、英国政府からの直接助成額は25%を多少下回った。
* 研究収入の16%は海外からもたらされた。
* 大学卒業者の就職率と平均給与額は、非卒業者に比べて高い傾向が続いている。
2. 学生
* 英国は海外諸国から、米国に次いで多くの留学生を呼び寄せている。学士課程では14%の学生、大学院課程では38%の学生が海外からの留学生である。
* 履修形態も多様であり、2015・16年度の学士課程では82%がフルタイム学生であったのに対して、大学院課程では43%がパートタイム学生であった。



3. 成果(アウトカム)
* 2017年に実施された全国学生調査(National Student Survey)によると、84%の学生が自分の在籍する大学に全体的には満足していると回答した。近年、学生の大学での体験や大学が与えた卒業生への成果(outcome)に対する国民や政府の関心が高まってきている。
* 学士課程や大学院課程を卒業した英国人卒業生の90%以上は、卒業後6カ月時点において就業しているか、または更なる学業についている。



4. 教職員
* 英国のアカデミック・スタッフの29%は外国籍で、17%は英国以外のEU諸国の出身である。また、英国の大学に在籍するシニア・レクチャラーの約25%と教授の18%が外国籍である。なお、女性は英国のアカデミック・スタッフの45%を占める。


5. 財務
* 2015・16年度では、大学の収入の54%が授業料以外から来ており、24%が英国政府からの直接的助成であった。また、研究収入の16%は海外からである。
* 大学による支出の55%は教育や研究活動に関連したものであり、それにはアカデミック・スタッフや補助スタッフへの賃金等を含む。


6. 筆者コメント
* 2015・16年度においては、大学の収入の46%が授業料収入であり、総収入の約半分弱と最大の比率を占めている。これは、年間授業料の上限が2012・13年度より3,000ポンド(45万円)から9,000 ポンド(135万円)に大幅に引き上げられたことが影響している。また、授業料の上限規制がないEU域外からの留学生向けの授業料が、非常に高く設定されていることも貢献している。
* 一方、英国政府による教育と研究向けの運営費交付金は、大学の総収入の24%まで低下している。有力大学ではその比率が10%台であり、9%を切っている大学もあると聞いている。したがって、財務的には私立に近づいている大学が出てきているように思える。
* 英国の大学では、学士課程学生の18%、大学院課程の38%がパートタイムの学生であり、働きながら大学に通う学生も多い。また、英国の大学における海外からの留学生数は、学士課程と大学院課程を合わせて約44万名と米国に次いで世界に二番目に多く、学士課程では14%の学生、大学院課程では38%の学生が海外からの留学生である。このように、英国の大学は色々な面で多様性に富んでいると感じる。
サイエンスポータル編集部注:
「英国大学事情」は、十余年にわたり定期的に掲載してきましたが、本稿をもって掲載終了になります。