レポート

社会と科学をつなぐ多様な企画に多数来場「サイエンスアゴラ2016」

2016.11.07

サイエンスポータル編集部 / 科学技術振興機構

「つくろう、科学とともにある社会」を「ビジョン」に科学技術振興機構(JST)が主催し、東京・お台場地域で開かれていた科学フォーラム「サイエンスアゴラ 2016」が 6 日午後、閉幕セッションを最後に 4 日間の日程を終え閉幕した。3 日の初日から連日好天に恵まれ、主会場の日本科学未来館などに並んだ企画ブースには大勢の親子連れや学生ら多くの一般市民が訪れた。今年は東日本大震災から5年の年になるため「震災復興5年」が重点テーマになった。また世界や日本が抱える社会的な問題や地球規模の問題を取り上げたセッションやワークショップの会場でも一般市民の姿が目立った。主催者によると期間中 8,000 人を超える来場者が訪れた。サイエンスアゴラは今回の成果と残された課題を踏まえて来年も 11 月下旬に開催される。4 日間の期間のうち後半のセッションを中心にレポートする(開幕セッションなど初日の様子などは 4 日公開のサイエンスポータルニュース「『サイエンスアゴラ 2016』が開幕」参照)。

写真1「サイエンスアゴラ 2016」の会場付近
写真1「サイエンスアゴラ 2016」の会場付近
写真2 6日の展示ブース「激走!!エネルギーサーキット」で来場者に説明する企画提供者の香川高等専門学校スタッフ。この企画は JST 賞6件の1つに選ばれた
写真2 6日の展示ブース「激走!!エネルギーサーキット」で来場者に説明する企画提供者の香川高等専門学校スタッフ。この企画は JST 賞6件の1つに選ばれた

 5 日午後には「うちの子、少し違うかも〜発達障害に対する適切療育・支援のための研究開発」が開かれた。発達障害はいくつかの症状に分類されるが、いずれも早期に発見して適切な療育をすることで障害を持つ子どもの可能性が広がる、とされる。登壇した研究者や教育関係者からは「障害を持っていても優れた特性を持つ子がいる。障害に対する社会の考え方も変わってきている。一人一人の特性に応じて長い目で社会参加させることが重要だ」
「得意分野を積極的に評価することが大切だ」などの指摘や発言が続いた。企画したのは JST の社会技術研究開発センター(RISTEX)で、担当者の一人は「JST としても『社会のなかの科学・社会のための科学』の理念の下、こういった社会的、今日的な課題についても積極的に取り上げていきたい」と話していた。

 この日の同じ時間に「違和感が世界を変える−科学におけるマイノリティのススメ」と題したワークショップが開かれた。企画提供者は「今までの科学技術イノベーションは全て『当たり前』への疑問から始まっている。社会は『当たり前』を中心に動きがちだがそれに合わないと『マイノリティ』と呼ばれる。しかし、このワークショップでは『マイノリティ』を『多数派・主流派との違いを自覚でき、現状の当たり前に居心地の悪さを感じる人』と定義した」という。

 登壇した日本 IBM フェローの浅川智恵子さんは視覚障害を持つ優れた研究者として障害者の情報アクセスやコミュニケーション力向上にもつながる多くの研究開発成果を挙げている。浅川さんは「14 歳の時に失明して人生の再スタートをしたが、多くの人のサポートを受けながらも普通に周囲の人と競争できる機会を得てきた。特別扱いではなかった。素晴らしい仲間と公平に競えた」と参加者に話し掛けた。また米国での研究環境について「障害者でも気にしないから特に親切ではないが必要なら助けてくれた」と語り、「日本もインクルーシブ(誰も排除しない)、ダイバーシティ(多様性)を取り入れることを真剣に考えるべきではないか」と指摘した。その上で「ダイバーシティ」をキーワードに「ダイバーシティの能力を活用できない組織はマジョリティの能力やさまざまなスキルも活用できないのではないか」と述べ「皆さんも何らかの形でマイノリティを持っていると思うが、マイノリティと感じている部分をアドバンテージに変えて今の日本を世界のロールモデルにしていけるように活躍してほしい」と強調した。

 このあと吉川弘之JST特別顧問が「設計学はマイノリティ」と題して基調講演した。2 人の話や講演を聞いた後、参加者はテーブルごとに「ダイバーシティ、マイノリティの力」について熱心に討議した。テーブルからの発表では「小さい頃から多様な考えがあることを知ることが大事だ」「場や社会が変わればマイノリティ(とされるもの)も変わる」「マイノリティは多様で、(自分から外に)一歩出て共有することが大事」などの意見が出された。多くの参加者は浅川さんらのコメントを聞き、これからの社会は多様な価値観や一人一人が尊重される社会が大切であることを実感したようだ。

写真3 ワークショップ「違和感が世界を変える−科学におけるマイノリティのススメ」で話をする浅川智恵子さん(右)と基調講演した吉川弘之 JST 特別顧問(左)
写真3 ワークショップ「違和感が世界を変える-科学におけるマイノリティのススメ」で話をする浅川智恵子さん(右)と基調講演した吉川弘之 JST 特別顧問(左)

 日本科学未来館 1 階の「アゴラステージ 2」では 6 日午前、「語ろう!科学技術への期待」と題した参加型のセッションが行われた。科学技術政策はさまざまな形で研究現場にも影響を与える。政策には考え方や価値観が異なる一人一人で構成される社会の「声」が考慮されるべきだが、その社会の声をどのように、どのような方法論で抽出するかを探るのが企画の狙い。セッションの場には来場者から寄せられた「50 年後の子孫に贈りたい地球」についてのアンケート結果が配布された。こうしたさまざまな“声”を基に来場した学生、若手研究者、市民らが4テーブルに分かれたグループワークで「未来社会に向けて科学技術ができる貢献」について話し合った。

 話し合いの結果について各テーブルの代表は「50 年後はロボットがいろいろやってくれる生活になっているだろうが科学技術(の成果)は人間に代わるのではなく、あくまで補助で、人間主体の世界であってほしい」「新しい科学技術によって(物理的な)距離の概念も、コミュニケーションの方法も、認知の仕方も変わり、モノのとらえ方も変わるだろう。そして幸せのとらえ方も変わるだろうが、様々な幸せを個人が選択できる社会であればいいと話し合った」などと発表すると多くの参加者が拍手していた。話題提供者でまとめ役の小野芳朗・京都工芸繊維大学副学長は「科学技術は幸せのためにあるんだという点で共通していた。平和とか幸せとかは普段はあまり意識しないが科学技術はそのためのツールだということを皆さんから教えてもらった」と最後にコメントした。

写真4、5 参加型のセッション「語ろう!科学技術への期待」
写真4、5 参加型のセッション「語ろう!科学技術への期待」
写真4、5 参加型のセッション「語ろう!科学技術への期待」

 6 日は今年のサイエンスアゴラの重点テーマである「震災復興 5 年」に沿った 2 セッションが開かれた。午前は日本学術会議と JST などの共催による「災害とレジリエンス」。セッションでは「レジリエンス」について「災害に対するレジリエンスは、理学が担う予測力、都市計画、工学が担う予防力、社会科学が担う対応力で構成される」とした。その上で熊本地震の教訓を実例としながら、災害の応急対応や復旧・復興を確実・迅速に進めるために科学や科学技術が今後なすべき方向性についての問題提起が続いた。

午後は「震災から 5 年?いのちを守るコミュニティ」。企画担当者は「震災は『いのち』の大切さを改めて問い直すとともに『いのちを守る力』の弱さを痛感させた」と問い掛けた。これを受け「いのちを守る活動」を実践している関係者が登壇。この中で兵庫県立大学の室崎益輝・防災教育研究センター長は「(自然災害から命を守るためには)社会による『公助』、自己責任による『自助』、コミュニティによる『互助』、ボランティアによる『共助』がある」とした上で「社会全体で守ることが大切だが、そのためには地域でしかできないことがある」とコミュニティの重要性を強調した。

 これを受け大阪市立大学の三田村宗樹・都市防災教育研究センター副所長は、地域の将来を担う中学生に焦点を当てた防災教育実践活動を紹介。今年度から「災害科学科」が新設された宮城県立多賀城高等学校の 2 人の生徒が「被災した経験を未来に世界に伝えたい」と力強く報告した。

写真6「震災復興 5 年」に沿った 2 セッションに関連した展示(日本科学未来館内)
写真6「震災復興 5 年」に沿った 2 セッションに関連した展示(日本科学未来館内)
写真7 セッション「震災から 5 年~いのちを守るコミュニティ」の登壇者。左から 3、4 人目が宮城県立多賀城高等学校の生徒
写真7 セッション「震災から 5 年~いのちを守るコミュニティ」の登壇者。左から 3、4 人目が宮城県立多賀城高等学校の生徒

 4 日間行われたイベントの締めくくりとして 6 日午後 3 時半から「閉幕セッション~サイエンスアゴラ NEXT」が始まった。JST 科学コミュニケーションセンターの渡辺美代子センター長は来年のサイエンスアゴラに向けて「未来をともに紡ぐために私たちが共有したい視点」と題したスライドをスクリーンに映しながら今年のサイエンスアゴラを振り返った。渡辺センター長は「(科学や社会の皆が)いかに当事者意識を持てるか、また事の本質がどこにあるかを各自考えて責任ある意思を持ち、意思がある者同士が共に考えることを実現するためにはどうしたらよいか、が大切だ」と述べた。

 続いてパネル討論が行われた。パネリストの国立精神・神経医療研究センターの神尾陽子部長は「自分の研究が社会のために役に立ってほしいと願わない研究者はいないと思うが個人の動機付けだけでは足りない。(個人を超えて)実現するための仕組みが必要だ」と指摘した。またフランス国立科学研究センターのアン・カンボン−トムセン名誉研究局長は「科学に対する一般市民からのインプットが重要で、科学は一般市民から学ぶことがたくさんある。科学者は勇気を持って自分の領域を越えていくことが大切だ」と強調した。

 最後に登壇したユーロサイエンスのピーター・ティンデマンス事務局長は「科学者は自分たちの研究について成果を自慢するだけでなく、きちんと話し合う場が必要で、そういう場に一般の人を組み入れていくことが重要だ」と述べた。その上で「これまで社会における科学の役割について話して来たが話があいまいだった。一般論で終わっていた。科学が社会の個々の問題についてこのように役に立つ、ということをこれからは具体的な事例をもって議論する必要がある」と指摘した。

写真8 閉幕セッションのパネル討論会
写真8 閉幕セッションのパネル討論会

 この後、毎年優れた出展企画に贈られる各機関賞の発表があり、「日本学生支援機構東京国際交流館賞」は南アフリカの科学の発展や数々の発明品を紹介した南アフリカ科学技術振興庁に、「フジテレビ賞」は畿央大学の「科学にチャレンジ-親子でミッションをクリアしよう! -」にそれぞれ贈られた。このほか JST 賞が 6 企画に贈られた。

写真9「日本学生支援機構東京国際交流館賞」が贈られた南アフリカ科学技術振興庁のブース
写真9「日本学生支援機構東京国際交流館賞」が贈られた南アフリカ科学技術振興庁のブース

(サイエンスポータル編集部)

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