レポート

リベラルアーツでも重要な科学教育

2015.06.10

溝口剛 / 国際基督教大学〈ICU〉教養学部アーツ・サイエンス学科 教授

 5月23日(土)午後、国際基督教大学(ICU)=日比谷潤子学長、東京都三鷹市=において「リベラルアーツにおける科学教育シンポジウム」が開催された。これは、本学の取り組みが採択された文部科学省「経済社会をけん引するグローバル人材育成支援」の一環。好天の週末、東京郊外のキャンパスで開催されたシンポジウムであるにもかかわらず、65人の参加者があり、中には高校教諭ら教育現場で科学を教える者も少なくなく、誰もが科学教育の必要性について真剣に考え、活発に意見を交わした。

イベント会場の様子

 このシンポジウムの登壇者は、本学と学生交流の計画を持つ米ウースター大学の統括副学長であるキャロリン・ニュートン氏、東京理科大学教授で本学元教授の北原和夫氏、本学教授(メジャー:物理学)の岡野健氏、そして本学の学生であった。

 ウースター大学は、米オハイオ州にあるリベラルアーツ・カレッジ。リベラルアーツとは、理系と文系の区別なく幅広い知識を得た後に専門性を深め、創造的発想を可能とする教育で、ウースターは、この良質な教育と理系への注力でその名を知られている。

 ウースター大学と本学は、グローバル人材育成支援の取り組みとして、理系分野を学ぶ学生の海外留学の機会を増やそうと、両大学の学生が卒業研究プロジェクトの一部を、双方の大学で実施する計画を進めており、私が本学プログラムの責任者を務めている。具体的には、ウースター大学の学生は、卒業研究プロジェクト「Independent Study(IS)」の基礎となる研究をICUで行い、一方の本学学生は、ISの準備段階として設けられている「Junior Independent Studies」をウースター大学で履修し、本学での卒業論文作成に要する英語のライティング能力を向上させる計画である。

キャロリン・ニュートン米ウースター大学の統括副学長
キャロリン・ニュートン米ウースター大学の統括副学長

 プレゼンテーション冒頭、ニュートン氏は「米国のリベラルアーツ・カレッジでは、平均して全学生の3分の1が自然科学メジャー。さらに、全米科学アカデミー会員2,000人のうち19%が、リベラルアーツ・カレッジの卒業生であることから、リベラルアーツは科学者としてのキャリアに有利である」と、現状を説明。その理由を「指導重視型の教授陣が行なう少人数教育により、学生は自信を持ち、話すことと書くことによるコミュニケーション能力を向上させる。また、他分野の学生との協働が奨励されており、学生がラボや居室にこもらない。さらに、社会科学や人文科学の学びにより、社会への興味や関心が喚起され、科学者としての力が高まる」とした。

 続いて北原教授は「すべての日本人のための科学教育を」と題したプレゼンテーションを行い、意義ある科学教育のためにも、国民に教育すべき科学教育とは何かについて、高等教育関係者が議論を続ける必要性を訴えた。そして岡野教授は、徹底した個別の学修支援と自主性を重んじた本学の授業形態について述べ、自身の手による実験を重視する科学教育こそ重要と話した。

 私は本シンポジウムの司会進行を担当した。質疑応答の際は、参加者それぞれの視点から、登壇者らに対して厳しくまた鋭い意見が寄せられた。私は、本学における日々の理系授業と同様に、私自身の視点および興味関心から、十数人に及ぶ会場の参加者に意見を求めた。会場参加者からは、競い合うように、ユニークな発言がなされ、大変有意義な意見交換となった。

 シンポジウム終盤には、本学で学ぶ学生から、日頃から実感し、考えていることとして、学問分野の枠組みを理解すれば、課題解決の学際的アプローチができるようになること、キャンパスにある学生寮は、学年と分野を超えて、他の学生と交流する最適の場所であることが指摘された。

 なぜ、文系学生も科学を学ばなければならないのか。ニュートン統括副学長は「自然科学は解決すべき世界の課題に深く関係している。科学が、日々の生活に深く関係していることが理解されれば、自然科学の必要性を、誰もが理解するはずである」と総括した。日本においても、リベラルアーツが研究者および研究活動に直接間接的に関わる者にとって必須であると、誰もが認める日は近いのではないだろうか。

溝口剛(みぞぐち つよし) 氏

溝口 剛(みぞぐち つよし)氏プロフィール
1995年、筑波大学大学院生物科学研究科生物学専攻修了(博士〈理学〉)。理化学研究所、筑波大学を経て、2012年度から現職。教養学部自然科学デパートメント長も。

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