レポート

研究不正の防止や対応の強化で議論百出

2015.02.09

小川 明 / 科学ジャーナリスト

 学術フォーラム「科学研究における健全性の向上」が2月5日、日本学術会議講堂(東京・六本木)で開かれ、文部科学省が昨年8月に決定して今年4月から適用される研究不正防止・対応ガイドラインをどう実践していくか、悩ましい課題について議論した。冷たい雨や雪が降る中にもかかわらず、全国から約400人が参加した。学術フォーラムとしては異例の大入り満員で、第2会場まで設けられ、この問題への関心の異様な高さを示した。

 開会あいさつで、主催した学術会議の大西隆会長が「この2年間、研究不正問題が噴出した。研究不正に真正面から取り組まねばならない。文部科学省のガイドラインを深掘りする必要がある」と語った。学術会議と昨年12月に共同声明「研究不正を許さない」を出した国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学連盟の代表もそれぞれ、研究が阻害されないよう、研究不正対策に積極的に取り組む姿勢を表明した。

 まず、文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課の片岡洋(かたおか ひろし)課長が「4月からの研究不正予防・対応ガイドラインの適用をしっかり進めたい」と語り、研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務や、各大学の研究不正対応規程のモデルなどの審議を学術会議に依頼した事情を報告した。ガイドラインの運用ルール作成は通常、行政主導で進むが、アカデミアの自律性を重視した点に、研究不正問題の特殊性がうかがえた。この学術フォーラムは、学術会議での半年間の審議結果を公表する重要な機会となった。

 学術会議でこの審議の中心になった小林良彰(こばやし よしあき)慶應義塾大学法学部教授は「学問の自由と独立を守るために自主的に決め、自発的に行う必要がある」と立場を明らかにした。「(論文著者の)オーサーシップと二重投稿など」について学術会議の議論を報告し、「研究のための資金調達や一般的監修を行うだけでは(論文の)著者資格の要件を満たすことにならない」と著者記載の厳格化を提言した。家泰弘(いえ やすひろ)東京大学物性研究所教授は研究データに関するガイドラインを詳述し、「データを適切に管理・保存し、必要に応じて開示することは研究者や研究機関に課せられた責務」と強調した。

 川畑秀明(かわばた ひであき)慶應義塾大学文学部准教授は「研究倫理理教育の参照基準」を示した。「研究者がその行動を自ら律するための研究倫理教育を確立する必要がある」として、学生や大学院生、職員に対する研究倫理教育の実施を各研究教育機関に求めた。三木浩一(みき こういち)慶應義塾大学法学部教授は各大学や研究機関が定める規程モデル(案)を示した。規程モデル(案)は7章39条からなり、趣旨や定義、研究者の責務を明記した総則から、不正防止体制、告発の受け付け、関係者の取り扱い、調査、不正行為の認定、是正措置と処分まで定めて、文部科学省のガイドラインを具体化している。

 一連の報告の後、小林良彰教授が司会してパネルディスカッションに入った。科学技術振興機構研究倫理主幹の御園生誠(みそのお まこと)東京大学名誉教授は「2015年度の研究費募集から研究倫理教育の受講を条件とする。自律的な自浄作業による改善が求められる」と語った。また、日本学術振興会の渡邊淳平(わたなべ じゅんぺい)理事は各分野に共通する教材として「科学の健全な発展のために、科学者の心得」を3月に刊行することを明らかにして、「科学研究費の交付に当たり、2015年度から研究倫理教育の履修の誓約を求め、16年度からは研究倫理教育の履修を要件にする予定」と述べた。

 会場いっぱいの参加者からは意見や質問が相次いだ。ガイドラインの法制化や研究不正局のような専門部署の新設についての質問に、文部科学省の片岡洋課長は「今回のガイドラインは文部科学大臣の決定で、履行状況を調査してペナルティーを課すので、拘束力はこれまでより強い。各研究機関による研究不正防止、対応で、まずは進めていく」と答えた。

 また、規程モデル(案)で研究不正がねつ造、改ざん、盗用のほか、「科学者の行動規範や社会通念に照らして研究倫理からの逸脱の程度が甚だしいもの」と定義されていることについて「あまりに漠然としている」と批判が出た。さらに、規程モデル(案)で不正認定の方法について「疑いを覆すことができないときは、不正行為と認定できる」とあるのは、当事者への不利益処分を考えると「非常に問題」と法学者が指摘するなど議論が百出し、参加者の間で、各大学がガイドラインを有効に適用できるか、不安も残った。

 最後に、文部科学省科学技術・学術政策局の川上伸昭(かわかみ のぶあき)局長が「一貫して行政の過度の介入を排除して、ガイドラインを作った。きょうの熱心な議論を無にすることがないよう、意見を精査して運用に取り組んでいく」とあいさつした。閉会あいさつでは、学術会議副会長の井野瀬久美恵(いのせ くみえ)甲南大学文学部教授が「ガイドラインがすべてを網羅するものではない。今後もルールを検証し、よいものに変えていかないと研究不正はなくならない。そういう場が学術会議である」と締めくくった。必要な議論だったが、トップダウンの風が目立ち、草の根からの研究不正防止の機運は弱かった。

 

会場にあふれた参加者らから熱心な意見が出た
写真1. 会場にあふれた参加者らから熱心な意見が出た=2月5日、日本学術会議講堂

学術フォーラム「科学研究における健全性の向上」のパネルディスカッションの参加者たち
写真2. 学術フォーラム「科学研究における健全性の向上」のパネルディスカッションの参加者たち=2月5日、日本学術会議講堂

 

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