レポート

英国大学事情—2014年12月号「英国経済に対する大学のインパクト」

2014.12.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 2014年4月、英国大学協会Universities UK)は、「The Impact of universities on the UK economy」と題する報告書を公表した。この報告書は、2011・12年度に、英国の高等教育分野が英国経済にどのようなインパクトを与えたのかを分析したものである。今月号では、この報告書から主要データを抜粋して紹介する。

【1. 高等教育分野の全体的インパクト 】

 英国の高等教育分野は直接的、二次的または複次的効果によって731億1,000万ポンド(13兆1,598億円(*1)を超えるアウトプットと757,268人(フルタイム雇用換算)の雇用を生み出した。この雇用数は、2011年における英国の全雇用数の2.7%に相当する。

 なお、この報告書では「高等教育分野のインパクト」を、大学によるインパクトと、海外からの留学生やビジターによるインパクトを合算したものと定義している。

*1. 1ポンドを180円にて換算

【2. 直接的収入、支出及び雇用 】

 2011・12年度における英国の大学の総収入は、279億ポンド(5兆220億円)であった。この額は、宣伝広告、マーケット・リサーチ業界や法律サービス業界の総アウトプットとほぼ同等で、基礎的医薬品業界よりも大きい規模である。

 英国のファンディング・カウンシルからの助成金は、大学の総収入の約30%であった。英国の公的分野からの総収入は136億ポンド(2兆4,480億円)となり、大学の全収入の49%を占めた。

 海外からの収入は57億ポンド(1兆260億円)近くに達し、総収入の20%強となった。これには、留学生からの授業料収入、海外の企業や公的分野からの委託研究やコンサルタント収入および宿泊施設やケータリングの提供による運営収入などが含まれる。

 2011・12年度に、大学は総額267億ポンド(4兆8,060億円)の支出をしているが、最大の支出項目は人件費であった。

 同年度に、大学は378,250人を直接雇用しており、これはフルタイム換算で319,474人の雇用となり、2011年における英国の総雇用数の1%強にあたる。

 大学は英国のGDPに対して179億7,000万ポンド(3兆2,346億円)の貢献をした。

【大学の年間総収入の分野別内訳:2011・12年度】

(出典:HESA)
(出典:HESA)

*上記の「公的分野」には、HEFCEなどのファンディング・カウンシルのほかに、リサーチ・カウンシル、地方自治体、地域開発局(development agencies)、National Health Services(NHSトラスト)などを含む。

【英国の大学の職種別スタッフ数と比率:2011・12年度】

(出典:HESA)
(出典:HESA)

【3. 二次的、複次的ノック・オン効果 】

 大学とそのスタッフによる支出は、経済全体にわたり、さらなるアウトプット、雇用および総付加価値(GVA)を産み出す。

 大学内部の100人のフルタイム職の雇用は、ノック・オン効果によって、さらに117人のフルタイム換算の雇用を産み出している。また大学分野以外の373,794人(フルタイム換算)の雇用は、大学による支出に依存して生活している。

 大学による100万ポンドのアウトプットごとに、経済の他分野に135万ポンドのアウトプットをさらに産み出している。これは大学の支出の結果として、大学以外の分野に376億3,000万ポンド(6兆7,734億円)のアウトプットを産出していることを意味する。

 また、大学は産み出す100万ポンドの総付加価値ごとに、さらに他の産業に103万ポンドの総付加価値をも産んでいる

【4. 外国人留学生と訪問者 】

 外国人留学生は、英国の大学に年間32億ポンド(5,760億円)の授業料を収めている。一方、EU域内からの留学生は約4億ポンド(720億円)の授業料をもたらしていると推定される。

 これらの留学生による大学キャンパス外での総支出は、2011・12年度では49億ポンド(8,820億円)に上ると考えられる。

 高等教育分野は、英国のビジネス・ツーリズムに重要な貢献をしている。ビジネスのために英国の大学を訪問したり、国際会議に出席したりするビジネス・ビジターや留学生を訪ねてくる友人や家族らの海外からのレジャー・ビジターは、少なく見積もって年間1億3,600万ポンド(245億円)を超える支出をしていると思われる。

 留学生によるキャンパス以外での個人的支出も、多くの産業分野に73億7,000万ポンド(1兆3,266億円)のアウトプットとフルタイム換算で62,380人もの雇用を産み出している。

 海外から英国の大学を訪れる上記のようなビジネス・ビジターやレジャー・ビジターも、年間1億9,100万ポンド(344億円)のアウトプットと1,600人強の雇用を産んでいる。

 また、留学生と海外からのビジターによる支出は、英国産業界に合計で35億1,000万ポンド(6,318億円)の総付加価値を産み出している。

【5. 英国の大学による輸出利益 】

 高等教育分野は、大学自身及び留学生や海外からの訪問者による私的な支出を含む全体で、英国に107億1,000万ポンド(1兆9,278億円)の輸出利益をもたらしている。

 Warwick Manufacturing Group内に設置された、TATA社のEuropean Technical Centreは将来のシティー・カーのデザインやコンセプト作りを行っている。

 この数字には、EU域外からの留学生の授業料収入32億4,000万ポンド(5,832億円)、EU域内からの留学生による授業料収入3億9,000万ポンド(702億円)、海外からの委託研究収入9億2,000万ポンド(1,656億円)、宿舎・ケータリング収入7億4,000万ポンド(1,332億円)、海外からのコンサルタント契約収入3億7,000万ポンド(666億円)、留学生によるキャンパス外での個人的支出49億1,000万ポンド(8,838億円)と、海外からのビジターによる個人的支出1億4,000万ポンド(252億円)などが含まれる。

【6. 英国のGDPへの高等教育分野の貢献 】

 高等教育分野の経済への重要性は、何代にもわたる高水準のアウトプットと雇用を見ることによって理解することができる。しかしながら、英国経済への貢献度に関する重要な点は、GDPに対するそのインパクトにある。

 Broad Instituteは、ハーバード大学、同大学関連病院、MITのバイオメディカル分野の学部学生、大学院生、ポスドク・フェロー、専門学者、アドミニストレーション・プロフェッショナル、アカデミック・ファカルティーなど、広範囲な約1,500名の研究人材を集めている。

 2011・12年度において、大学は英国のGDP に364億ポンド(6兆5,520億円)を超える貢献をした。さらに、キャンパス外での留学生や海外からビジターは、英国のGDPに35億ポンド(6,300億円)の貢献をしている。これらの貢献を合わせると、399億ポンド(7兆1,820億円)と、2011年の英国のGDPの2.8%を占めることになる。

【7. サマリー・データ表 】

【8. 筆者コメント 】

 英国大学協会(UniversitiesUK)は、今までにも英国の大学分野による経済へのインパクト調査を実施してきており、今回で5回目となる。当報告書からも理解できるように、英国経済に対する大学のインパクトは非常に大きいものがある。

 それ故、当報告書は、英国の大学分野が英国全体にどのような大きな役割を果たしているのかを示すことによって、社会の支持を訴える役目を持つ。また、政府による大学政策の変更は英国全体に大きな影響を与えるため、政策の立案・変更には英国全体を考えた上で、より慎重に行うべきとの政府への警鐘の役割を担っている。

参考資料:UniversitiesUK
http://www.universitiesuk.ac.uk/highereducation/Documents/2014/TheImpactOfUniversitiesOnTheUkEconomy.pdf

ページトップへ