「Save Legs, Save Patient's Life 〜 集学的治療でさらなる救肢を目指そう」をテーマに、第6回日本下肢救済・足病学会が6月28、29日、札幌市内で開催された。この学会は、動脈硬化や糖尿病などに起因する難治性足病変の増加を背景に、大浦武彦・北海道大学名誉教授が2009年に設立した。今回の会長、浦澤一史・時計台記念病院副院長は、重症下肢虚血症(Critical Limb Ischemia:CLI)の治療のために末梢血管用の医療機器を考案してきた。同学会の講演や議論の一部を報告する。
ランチョンセミナー「フットケアにおける新たな看護技術の開発」真田弘美氏(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻教授)
2014年6月に成立した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」に触れ、東大病院の取り組みを述べた。真田氏は褥瘡(じょくそう)や足潰瘍の発生要因に着目し、血流促進のための振動器「リラウェーブ」をマツダマイクロニクスと開発した。コンセプトは「感染の危険がなく、非侵襲的、継続できる心地よさ」。臨床試験では、血流促進効果が検証できたという。
イブニングセミナー「CLI評価指標の位置づけ」(登壇順)
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の渡邊環氏が、「次世代医療機器評価指標」の解説をした。これは経済産業省と厚生労働省の共同事業で、審査の迅速化を図るため2005年に設置された。CLI治療用医療機器の臨床評価に関するガイドラインが13年5月に出され、国内数社が開発を考えている。渡邊氏はボストンの大学病院の医師で、期間限定でPMDAに来ている。日米の産官学による共同活動「HBD:Harmonization by doing 実践による日米医療機器規制調和」も紹介した。
福岡山王病院循環器センターの横井宏佳氏は、CLI評価指標の経緯を語り、「OSPREY」などの国際共同治験を踏まえて論じた。「日本では循環器と形成外科が連携し、糖尿病と透析が多い割に下肢切断が少ない」として、日本のきめ細かなマネジメントが生かされるよう呼びかけた。
中村正人氏(東邦大学医療センター大橋病院循環器内科)は 、通称「OLIVE Registry」と呼ぶ、末梢血管内治療の多施設・追跡調査について詳説した。中村氏は関西労災病院の飯田修氏と共に同調査の責任研究者で、高率な再狭窄と再閉塞を問題とした。
杏林大学病院形成外科の大浦紀彦氏は、末梢血管内治療における臨床評価指標としての創傷評価の必要性を訴え、大きさや部位などが多様な創傷の評価の難しさを説明した。さらに創傷に関わる言葉の統一と定義づけ、写真記録やチェックリストの作成、創傷治療法の標準化を提案した。続いて飯田氏ら3人が加わり、日米共通プロトコルづくりなどを議論した。
教育講演「米国における糖尿病の足病変治療・2014年アップデート」鈴木一雄氏

教育講演をした鈴木一雄氏
(Department of Surgery Cedars-Sinai Medical Center)
鈴木氏は米国の大学で医師免許を取得し、現在ロサンゼルスの病院の創傷ケアセンター所長を務める。「創傷ケアは治療テクノロジーの集結」と指摘し、豊富な画像と共に話を進めた。
〈要旨〉
米国の糖尿病患者は2 600万人。治療コストは毎年16兆円に及ぶ。神経障害・血流障害が高じてできる足潰瘍は下肢切断の大きな原因になっており、生命にも関わる。そのため米糖尿病学会ガイドライン(2013)は「患者の最低年1回の検診、チーム医療による創傷ケア」を推奨している。下肢救済チームには次の3本柱が大切だ。「内科:腎臓・糖尿病や感染治療、栄養管理」「血流:血管外科・循環器・放射線科」「フットケア:形成外科、装具義肢」である。
診断では「皮膚アセスメント、感染や下肢虚血のチェック」をするが、まずレーザードップラで毛細血管の血流を測定する「皮膚組織灌(かん)流圧検査(SPP:Skin perfusion pressure)」が必須だ。40mmHg以上なら治癒可能。治療のステップは「デブリードメント(debridement:壊死組織の除去)、除圧・治療装具、モイスト・ドレッシング(湿潤被覆材)」。デブリードメントの方法はメス・ハサミ、超音波、酵素軟膏、密閉ドレッシング、マゴット(無菌うじ虫)などで、頻度が増すと治癒率が向上する。「超音波デブリードメント機器」は、低波数の超音波(35 kHz)のcavitation* 作用によって、創傷・潰瘍表面のバクテリアを破壊、同時に生理食塩水で洗浄し、バイオフィルムを除去する。
*Cavitation:液体の流れの中で圧力差により急速に発泡と消泡が起きる物理現象
治癒困難な場合、高度な先進的ケアが望ましい。高額だが先行投資と位置づけ、ずるずる長引くより、早く治れば、むしろ節約になる。米国最新のトレンドを紹介する。
バック療法(VAC:Vacuum Assisted Closure) は深い潰瘍や腱・骨露出ケースに適切だ。5分間隔で洗浄・吸引する機器「SNaP」はバネで動き電力が不要。軽量で大型マシンと同じ効果がある。外科手術の切開部への持続洗浄バック療法は、糖尿病や肥満など感染ハイリスク患者や重度の感染創に有効だ。高気圧酸素(HBO:Hyperbaric Oxygen) 療法では血液内の酸素が通常の10倍に増える。血流内の幹細胞の増加や下肢大切断の減少が報告されている。高齢者や心臓疾患にも使える。
手を尽くして治りかけても、禁煙できずに死亡した糖尿病患者が絶えない一方、一年ないし数年がかりで完治した糖尿病や透析患者も少なくない。下肢救済は根気のいる忍耐勝負。患者が諦めないのなら、私は絶対ギブアップはしない。
◇ ◇
旭川医科大学血管外科の東信良教授らのビデオライブ「distal bypass(末梢への血行再建)手術」や創傷被覆材の進化、栄養管理の知識も興味深く、異なる専門域の連携の重要性を認識した。

-ギプスで患部への圧力分散

-ギプスを切開
関連リンク
- HBD:Harmonization by doing 実践による日米医療機器規制調和
- Dr.Kazu Suzuki, DPM CWS.(鈴木一雄氏 kazu.suzuki@cshs.org)
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