レポート

研究成果のオープンアクセスに号砲が鳴った

2014.03.19

サイエンスポータル編集員

 21世紀に入ってから、研究成果を自由に入手できるようにするオープンアクセスの機運が世界の潮流になった。各国ともその取り組みを強める中で、日本はどうするのか。立ち遅れの危機感と日本発のリーディングジャーナル育成の意欲が交錯しながら、日本もオープンアクセスに向かって号砲が鳴った。そのように位置づけられる日本学術会議主催学術フォーラム「世界のオープンアクセス政策と日本-研究と学術コミュニケーションへの影響」が3月13日、学術会議講堂で開かれた。学術会議の大西隆会長、日本学術振興会(学振)の安西祐一郎理事長、科学技術振興機構(JST)の中村道治理事長らが一堂に会し、オープンアクセス政策について熱く語り合った。晩冬の冷たい雨が降っていたにもかかわらず、研究者や図書館関係者ら約250人が参加して議論が続き、関心の高さを示した。重要なフォーラムだった。
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▽学術誌を読めない危機

 冒頭、学術会議で学術誌問題検討分科会委員長を務める浅島誠・東京大学名誉教授が趣旨説明に立った。「日本の学術の根幹に関わる問題が今起きている。ジャーナル購入費の高騰と図書予算の削減で、押さえるべきジャーナルが購読できず、突然読めなくなっている。深刻な危機が大学や研究所で進行している」と警告を発した。「日本は、研究が世界のトップレベルにありながら、論文の投稿や出版は海外誌に依存している。また、学術誌のオンライン化による配信が進む中で、日本は新しい時代への対応が不十分だ。全世界で研究成果のオープンアクセスは起こっている。社会に必要な研究成果の公開とは何か。目指すべきオープンアクセスの方向を議論し、論文の質の保証と日本の学術のあり方も考えよう」と訴えた。
学術会議の大西隆会長は「学術界のキーワードは『オープン』にある。論文やデータをオープンにして、誰もが対価を払うことなく利用できるようにしたい。研究成果は広く知らせたい。ただ、費用を誰が負担するかは簡単に解けない」とあいさつした。
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▽有力な英文誌を育成へ

 3人が基調講演した。
学振の安西祐一郎理事長は「公的な研究資金による成果は誰にも共有できるようにするオープンアクセスが世界的な流れで、止めることはできない。国際会議でもホットな議論がこの問題で交わされている。英文のジャーナルによる発信を強化する。オープンアクセスを含む国際情報発信強化のため、4、5億円の予算を付けたが、焼け石に水の状態だ。課題を洗い出し、合理的な対応が必要となる」と提言した。
JSTの中村道治理事長は「オープンアクセスにより、知識を生み出す側と使う側で垣根なく利用できる状況が生まれ、情報通信技術の進歩もあって知識獲得競争の火ぶたが切られた」と現状を捉え、JSTとして昨年4月に「JSTの研究費で得られた学術論文などの成果は、オープンアクセス化を推進する」と方針を打ち出したことを報告した。「知識を産み出す側が、利用する側でもあることを認識しつつ、データを抱え込む従来の体質から脱却し、世界中の研究成果を利用し、自分の研究をステージアップさせないと、国際競争に立ち遅れてしまう。JSTはファンディング機関としてオープンアクセスを実現する」と話した。
海外からは、ドイツのマックス・プランク協会電子図書館学術情報提供部のラルフ・シマー部長がオープンアクセスの国際情勢について基調講演した。2003年に、470以上の研究機関(日本からの参加なし)が署名したオープンアクセスに関するベルリン宣言が機運を高めたと指摘。欧州連合(EU)の新しい研究振興プログラムHorizon2020(2014~2020年)では、EUの予算で研究した成果はオープンアクセスが義務づけられることを強調した。「オープンアクセスは世界中でダイナミックに成長しつつある。ベルリン宣言に日本も署名してほしい」と要望した。
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▽コストや予算確保も課題

 後半、浅島誠さんが司会してパネルディスカッションに移った。
文部科学省科学技術・学術政策研究所の林和弘上席研究官は「図書館予算が伸び悩む中、アジアの論文数が増大している。その増大分はオープンアクセスでカバーするのは必然だ」と語った。一橋大学図書館の江夏由樹館長は「図書館はお金がなくて、あっぷあっぷだ。電子ジャーナルはただで空から降ってくるわけでない。危機感を共有する必要性がある」と話した。日本化学会の玉尾皓平会長は「リーディングジャーナルの育成とオープンアクセスは両立できる」とみて、最大20ジャーナルの育成を目指して、年間1.5億円、計30億円の予算を付けて、科研費で支援するよう「現場からの具体的な提案」をした。物質・材料研究機構(NIMS)科学情報室の谷藤幹子室長は、学協会が魅力的なオープンアクセス誌を出し、日本発のオープン化のメリットを投稿者や読者にアピールするよう求めた。また、NIMSは今年1月、英国物理学会出版局(IOP)と共同で刊行している英文のオープンアクセス材料科学ジャーナルを今後5年間、NIMSによる責任編集によって国際共同刊行することをスイス連邦材料試験研究所(Empa)と合意したことを明らかにした。
学術会議の大西隆会長は「国際連携は重要で、どこかと組み、共同でリーディングジャーナルを目指すのはよい方法だ。日本は得意な分野でオープンアクセスを育てる意味はある。学術会議はその旗振りをする」と約束した。学振の安西祐一郎理事長は「日本の学術を発展させるためにも、リーディングジャーナルの育成とオープンアクセスは両立させないといけない。持続性も大事で、ぜひ応援していただきたい」と呼び掛けた。JSTの中村道治理事長は「オープンアクセスや国際化のために、大同団結してJSTとJ-STAGEを使っていただきたい。やりがいがある」と参加者に求めた。会場からも多様な意見や質問が出て、査読のノウハウや不正行為の防止、学術誌を発行する国際的出版社との連携、コスト、編集者の養成、研究者の無関心層などの課題が多岐にわたって議論された。
掛け声が先行して、具体的な実践では宿題が目立ったが、司会の浅島誠さんは「学振もJSTもオープンアクセスに予算をつけて、科学ジャーナルの問題に取り組んでいる。今日の前向きな検討や議論を基に前に進もう」と4時間半に及んだ学術フォーラムを締めくくった。
(了)
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学術フォーラム「世界のオープンアクセス政策と日本」のパネルディスカッション=3月13日、日本学術会議講堂
学術フォーラム「世界のオープンアクセス政策と日本」のパネルディスカッション
=3月13日、日本学術会議講堂
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学術フォーラムでオープンアクセスについて発表した人たち
学術フォーラムでオープンアクセスについて発表した人たち

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