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「ヒッグス粒子」の存在を1964年に予測した英国のピーター・ヒッグス博士とベルギーのフランソワ・アングレール博士が、2013年のノーベル物理学賞を受賞した。何よりも、欧州合同原子核研究機関(CERN)にある「大型ハドロン衝突型加速器」(LHC)という装置を使って、日本の大学や研究機関なども参加する2つの研究チームが別々に実験を重ね、一致してヒッグス粒子“発見”の確証を得たことが大きかった。
ヒッグス粒子は、素粒子物理学での「標準理論」で考えられた17種類の素粒子のうちの最後の1つで、万物に質量を与えた“神の素粒子”とも称される。ヒッグス粒子がなかったら、ビッグバン直後の宇宙では質量のない素粒子が光速で飛び交うだけで、今の原子や銀河や星も、私たち生物も存在していなかったという。しかし、それはどういうことなのか。本書がズバリ、解説している。
著者は科学者ではない。長年、新聞社の科学記者として科学ニュースを追いかけ、科学者本人にも会って取材してきた。そうした経験を通した第三者の目で、ヒッグス粒子をはじめとする難解な素粒子物理学をかみ砕き、壮大な宇宙論の展開をひも解いてくれる。その作業の意義は、読者に“宇宙の謎”を整理してみせたところにある。
「謎がまた新たな謎を呼び…」と言うと、ミステリー番組の宣伝文句にも聞こえるが、実際に、素粒子や宇宙の世界もその通りのようだ。発見されたばかりのヒッグス粒子にしても、その質量は標準理論からすると「軽すぎる」ため、「他のヒッグス粒子」かもしれないという。新たな「超対称性理論」によると、ヒッグス粒子は「5つある」というから、さらに驚く。
宇宙についても「137億年前に、無から誕生し、急激な膨張(インフレーション)を経て、ビッグバンが起きた。そこから、さらに膨張を続けて、今に至っている」と、現在の科学者らは考えているが、そもそも「無」からの誕生とは、どういうことなのか。宇宙を作っている“もの”にしても、およそ4分の3は「暗黒エネルギー」、約4分の1が「暗黒物質」、4%ほどが原子や素粒子などによる「普通の物質」だというが、銀河の内外に存在する“はず”の暗黒エネルギーや暗黒物質の正体は、今は不明だ。
CERNのホイヤー所長は「ヒッグス粒子を詳しく調べることで、暗黒エネルギーの解明のヒントが得られるかもしれない」という。今後の宇宙論や素粒子論は、どのような展開をみせるのか。著者も言う通り、「宇宙の謎解きの行方が楽しみだ」。