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街の書店に行けば、「クリティカルシンキング」を冠する本は容易に見つけることができる。しかしそれらの多くはビジネス書でかつ、科学技術に特化した内容ではないものが大半ではないだろうか。
本書では、科学の営みの根底にあるクリティカルシンキングの考え方について、社会に埋め込まれた科学技術の具体例を挙げながら、読者とともに紐解いていくというスタンスをとる。ごく最近に行われたサイエンスカフェ神戸(No.86)「これからの宇宙の「使い方」を考える」(2012年12月22日開催)や情報ひろばサイエンスカフェ「あなたの関心は?それにいくら投資しますか?〜宇宙研究大型プロジェクト〜」(2013年1月25日開催)で議論された内容も含まれていて、サイエンスカフェに高い関心をもつ人たちにとっても興味をかき立てる内容に仕上がっている。
そのほか、「こまば脳カフェ」や「脳カフェ・杜の都で脳を語る」で話題になった「脳神経科学の実用化」、RIRiC版 GM Jury「遺伝子組換え作物を考えるGMどうみん議会」やバイオカフェ「ご存知ですか?日本の技術が遺伝子組換えトウモロコシを牽引していること」で話題になった「遺伝子組換え作物」の議論など、異なる意見の論点を整理した上で読者にどちらがより説得力を感じたかを問うている。国内のファンディングエージェンシーや学会、民間企業、そして個々の研究者の意見や論文が引用されていて、机上の空論になっていないところが文字通り「科学技術をよく考える」ネタとして、非常に練ったものになっている。
サイエンスカフェに行って、研究成果を披露されただけでは飽き足りない人も少なくないだろう。私自身も議論の時間が与えられないと、わざわざ足を運んで参加しようというモチベーションを抱かなくなりつつある。私が今年3月まで研究プロジェクトで関わっていたJST社会技術研究開発センター(RISTEX)は、「社会的・公共的価値の創出を目指し、研究開発資金配分を通じて社会の具体的な問題の解決に寄与することを目的」とし、「科学技術の社会実装」を強く打ち出している。「科学技術の社会実装」のためには、クリティカルシンキングの考え方について科学技術の文脈の中で捉えていくことが必需であろう。カフェの中でもそういった議論の「場」が意識的に実装されることを期待したい。
本書は「大学生、大学院生向けに編まれた」と冒頭で記されているが、もっと広く科学技術を考えたい人たち、科学技術の社会実装を担いたい人たちにとって慧眼の一冊になるはずだ。編者の中には研究プロジェクトなどを通じて親交を深めた方々もおられるので、近いうちに本書を下敷きにしたカフェイベントを企画してみたいと思っている。
※本書は、科学研究費補助金基盤研究B「科学技術社会論と融合したクリティカルシンキングの研究および教育手法開発」(2009-11年度)の主な成果として作成されたものです。
関連リンク
サイエンスカフェ神戸(No.86) これからの宇宙の「使い方」を考える