英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)
【1. はじめに 】
- イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は、大学に関する情報をできる限り一般に公開するように各高等教育機関を指導している。その一環として、大学進学希望者が各大学やコースを比較できるように、「全国学生満足度調査:National Student Survey」の結果や「Unistats」という各種データを掲載したウェブサイトを立ち上げている。また最近では「Key Information Sets」と名付けたさまざまな大学情報の公開をも各大学に義務づけている。今月号では、これらの「全国学生満足度調査」と「Key Information Sets」の概要を紹介する。
- 「学生満足度調査」の結果や「Key Information Sets」のデータは、各大学に対する品質保証の調査にも利用されるとともに、各大学が教育の品質を向上させるための手段としても利用されている。「全国学生満足度調査」は2005年の開始以来、毎年実施されており、質問内容などに改良を重ねてきた。なお、この調査の実施はHEFCEの委託を受けて、調査会社のIpsos MORIが行っている。
【2. 2012年度・全国学生満足度調査 】
【2012年度・学生満足度調査結果の概要】

- 2012年9月、HEFCEは2012年度「全国学生満足度調査」結果を発表した。それによると、全体的な満足度が平均で85%となり、2005年の調査開始以来の最高準となった。
- 調査対象となる項目全般にわたり、満足度は昨年度より改善している。特に、今まで常に満足度が最低であった「アセスメントとフィードバック」への満足度が昨年度の68%から70%に改善している。
- 多くの大学進学希望者が志望校を選択する上で、学生ユニオン(student union)の活動状況の情報が有益であるとの希望が多くあったため、2012年度の調査から学生ユニオンに関する質問を追加した。なお、英国の大学の学生ユニオンは19世紀以来の歴史があり、自治組織として各種のsocietyや娯楽行事などの運営やメンバー学生への支援を行っている。また通常、キャンパス内に独自の建物を持っていることが多い。
- 2012年度の当調査には、英国全土の154の高等教育カレッジを含む高等教育機関および106の継続教育カレッジ(further education college)が参加した。アンケート調査に回答した学生数は全員が最終学年度の学生で、前年比2万人増の287,000人であった。また、回答率は67%と、調査開始以来の最高を記録した。
- 実際にどのような質問をしたのかを、参考までに紹介する。
【2012年度調査の質問事項】

【3. Key Information Sets 】
- Key Information Sets(KIS)は、高等教育機関への進学希望者が志望校を選択する際に役立てるため、全国の大学のフルタイムおよびパートタイムの授業コースの情報が大学別に比較できるようにしたデータである。
- 全国の大学は、毎年10月末までにこれらのKIS情報の最新版を「Unistats」ウェブサイトにアップすることが義務付けられている。
- KISには入学希望者が有益であるとした、学生満足度、卒業生の進路、学習・授業活動、評価方法、授業料、奨学金や生活補助金、寄宿舎や民間の貸家、取得できる資格などが含まれる。
【Key Information Sets】

【4. 筆者コメント 】
- 英国の大学進学希望者が入学志望校を選定する際にどのような情報を欲しているのか、またHEFCEがどのような情報を重視しているのかを紹介するために、「全国学生満足度調査」の全質問事項と「Key Information Sets」の全項目を掲載してみた。
- 英国政府関連の資料を読んでいると、学生を「customer」と呼んでいる資料によくぶつかる。2012年秋のタームからは年間授業料が従来の最大3,200ポンド近くから一気に最大9,000ポンドに大幅に上昇しており、それだけの価値があるのか、学生や学生の親たちの大学に対する目も従来以上に厳しくなってきている。
- それらに対処するためにも、大学進学希望者に対する大学の「サービス」の一環としても、各種の情報公開がHEFCEの指導の下に進められている。