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昨年3月、福島市内で開かれた市民参加型シンポジウムの講演、シンポジウムの内容をまとめた1冊。経済学者が集まる経済理論学会を中心とする複数の経済学系学会が主催したもので、現地の市民の前で、市民も交えて開いたシンポでは、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で問われた科学者の責任、中でも社会科学者の責任について議論している。
2012年の科学技術白書は、科学者や技術者への信頼が震災と原発事故で低下したことを明らかにした。震災前、「科学者の話は信頼できる」と答える人は12-15%だったが震災後は6%に下がった。「科学への信頼は地に落ちた」とも言われた。白書は原因として「リスクへの事前対応が不十分だった」ことなどとともに、緊急時に専門家が知見を的確に提供できなかった点を挙げた。地震・津波や原発事故にかかわる科学者といえば、「自然科学」を思い起こす人が多いかもしれないが、原発やエネルギー供給の経済性、国の政策決定や地方自治のあり方、地域コミュニティーの確保など、さまざまな面で社会科学者の役割も大きい。
シンポには、被災自治体首長、支援活動に取り組むミュージシャン、地元の福島大の研究者ら幅広いメンバーが顔をそろえ、受付に行列ができるほどの市民が集まった。福島だけではなく日本の将来も憂い、震災および事故の「責任」の所在を明確すること、その判断基準に「倫理」を求める参加者たちの思いが、本書につづられている。
「日本の政治を変えるのは現場から。現場感覚のない人たちがデスクワークで政策を書くことは現実的ではない」(福島県南相馬市長・桜井勝延氏)
「福島は置き去りになっている。東京とかで日常の話を聞くと、もっと電気の話をしてよ、と言いたくなります。もっと真剣に日本の将来とかエネルギーの話がされてもいいよね」(福島県農民運動連合会事務局長・根本敬氏)
「ノーモア・フクシマと言われちゃうと、福島というアイデンティティが傷つく」(ミュージシャン・大友良英氏)
「これまでのように中央政府が統括する経済成長を中軸において、日本の経済、国土、地域を考えることに反省を迫る」(摂南大 教授・八木紀一郎氏)
「社会科学者、とりわけ経済学者も『原子力発電の効率性』といった議論で最終的な原発建設・推進の片棒を担いでいた」(慶応大 教授・大西広氏)
「すぐに答えが出なくても、一緒に考えるという姿勢で活動することが重要なのではないか」(日本学術会議 前会長・広渡清吾氏)
「中央の視点ではなく、復興の現場である地域の視点に立って分析・創出していくことこそが、社会科学が果たすべき役割」(東京海洋大 准教授・濱田武士氏)
「原子力は技術と安全だけの問題ではない。環境的な正義、世代間の正義、そして倫理にかかわる問題でもある」(ドイツ政府エネルギー問題倫理委員会 委員・ミランダ・シュラーズ氏)
あの3・11から2年近く。本書の中で語られている言葉の重みは、今なお、どれも変わらない。