レポート

科学のおすすめ本ー 資源がわかればエネルギー問題が見える

2012.09.24

永山悦子氏 / 推薦者/科学ジャーナリスト

資源がわかればエネルギー問題が見える
 ISBN: 978-4-569-80678-5
 定 価: 740円+税
 著 者: 鎌田浩毅 氏
 発 行: PHP研究所
 頁: 226頁
 発行日: 2012年6月15日

 奇抜なファッションに身を包み、京都大学の自然科学系授業で一番の人気を集める火山学者の新著。東日本大震災を受け、従来の常識の見直しを迫られているエネルギー・環境問題を考える上で、日本人として身につけておくべき「地球科学の基礎」を分かりやすく解説する。

 前半は、資源やエネルギー供給の現状を分析する「資源編」。後半は、私たち人間が生活を営む場を見直す「地球環境編」だ。

 「資源編」では、政府や国会、社会で議論の的となっているエネルギーの資源が、どこにどのくらい埋蔵されているか、それらの供給体制はどうなっているのか、地球温暖化への影響はどうなのかなど、メリットとデメリットを解説する。中でも、ウランに関しては、原子力発電の位置付けだけにとどまらず、膨大な量の放射性廃棄物の処分場所の確保(現状は白紙)が「喫緊の課題だ」と訴える。また、地熱発電やメタンハイドレートなど、これまであまり顧みられなかったエネルギー資源の活用に向けて、日本独自の技術力を磨き、蓄えていく必要性を説く。

 「地球環境編」では、地球の成り立ちから始まり、月が現在の地球の“1日24時間”を作り出したこと、大陸の分裂・合体の歴史を振り返り、今は“大陸の再合体”に向かっていること、地球内部の物質の対流が、太陽風を防御する地磁気を生んだこと、海までも凍る「全球凍結」が生物の多様な進化につながったことなど、地球の「真実」に迫り、私たちの足元を見つめ直す。

 社会活動に欠かせない資源も、現在の地球環境も「地球誕生から46億年という長い歴史が作り上げたストック」というのが著者の主張だ。石炭や石油は100万-数百万年かけ、ウランは約1億年かけて作られる。一方、農業革命、都市革命、科学革命などを経て、人類は地球や自然を支配できるかのような思い込みを持つようになった。そんなときに起きたのが、東日本大震災であり、東京電力福島第一原発事故だった。そして、いまだに多くの日本人が資源や環境問題の現実を知らず、結果として、国際社会の競争や駆け引きで手痛い目に遭っている事実を目の当たりにして、本書をまとめたのだという。

 人類の歴史は「地球の長大な営みを知る地球科学者の目には、限られた資源を使い尽くす無謀な行為、つまりストック社会の末路と映る」と記す。特に、日本は世界屈指の地殻変動帯に位置し、世界有数の地震国、火山国だ。数百年から1000年周期で起きる巨大自然災害も含め、現在の日本や地球が抱える問題について、数万年という長い時間軸で向き合い、自然への畏敬の念を持ちつつ上手に折り合って生きる姿勢や社会づくりを求めている。

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