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世界的な注目を集めた小惑星探査機「はやぶさ」については、苦難の旅路や活躍ぶり、その偉業を達成したプロジェクトメンバーの生き方などを紹介する本がたくさん出版されている。ほとんどが大人向けだが、「はやぶさの財産を次世代に」と、子ども向けの“はやぶさ本”も最近いくつか出版された。その1冊が、「はやぶさ」の「サンプラーホーン」(小惑星イトカワへの着陸時に表面の物質を採取する装置)を開発した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究者である著者による本書だ。なぜ“星のかけら”を求めて小惑星探査をするのか? そんな素朴な疑問に答え、宇宙探査の魅力を若い世代の読者に語りかける。
宇宙は「地球の外側の世界」だが、地球も宇宙の一部であり、「宇宙のチリ(宇宙塵)」が静かに地球に降り積もり続けている。地球は宇宙とつながり、地球上の私たち全ても宇宙の物質から作られているのだ。そうした“私たち自身の起源”を求めて、宇宙から降ってきたチリや隕石、流星などを調べ、さらに“星のかけら”を探しに宇宙に飛び立つ。本書では、地球上での宇宙のチリの探し方、隕石・流星研究のノウハウ、海外の宇宙探査の歴史などを紹介し、到達した小惑星イトカワでサンプラーホーンが予定通りに働かなかった舞台裏を明かすなどして、「はやぶさ」ミッションの真の目的を解説している。
本書を読みながら、「はやぶさ」のことを思った。イトカワにタッチダウンした2005年11月、「はやぶさ」の管制をしていた神奈川県相模原市のJAXA宇宙科学研究本部(当時)を取材し、20億キロのかなたで健気に奮闘する探査機に魅了された。まさに“七転八起”。次々とトラブルに見舞われても、あの手この手で切り抜けるプロジェクトメンバーたちに、科学の“ワクワク感”を教えてもらった。10年6月、オーストラリア南部の砂漠で「はやぶさ」の帰還を待ち受けたときもそうだ。はやぶさ帰還の時刻が近づくにつれて空を覆っていた雲が消え、頭の上から地平線まで、見渡す限りの夜空が無数の星に埋め尽くされた。「『はやぶさ』は7年間、往復60億キロを一人ぼっちで寂しく旅していたわけではない。これほど多くの星に見守られていたのだ」。あの夜、私たち自身が「宇宙の中で生きている」ことを実感した。
「はやぶさ」がイトカワ近傍で得た詳細な観測データや、帰還したカプセルに入っていたイトカワの表面物質は、“私たち自身の起源”を知る研究に新たな地平を開き、日本の科学技術の底力を世界に示した。著者も参加した国際学会では、「NASA(米航空宇宙局)もできない難しいミッションを成し遂げ、“はやぶさ”は私たちにまったく新しい小惑星像を見せてくれた」と高く評価され、賞賛の大きな拍手が贈られたという。
不可能を可能にする——言葉では簡単だが、実現は一筋縄ではいかない。しかし「不可能だ」とあきらめてしまうのは、私たち自身の想像力の貧しさや信念の弱さが原因かもしれない。「できない」という常識を変えれば、「不可能」も「可能」になる。その一例が「はやぶさ」だ。プロジェクトが始まった1990年代、米国をはじめ世界の多くが「小惑星に到達して物質を持ち帰る探査計画は、あまりにも難しくリスクが高すぎて不可能」と考えていた。プロジェクトチームは「やればできる」と知恵を絞り、「はやぶさ」の成功を引き寄せたのだ。
「はやぶさ」は人類史の一里塚となり、すでに「過去の出来事」になった。では、将来はどうなるのか?
著者は、「未来は正確に予想することはできない。だが、それを悲観するのではなく、いつか誰かが実現してくれるだろうと期待するのでもなく、自分が面白いと思う『未来設計図』を描けばよい。未来を予想する最良の方法は、あなた自身がその未来を創ってみせることだ」と記す。将来、「はやぶさ」のバトンを引き継ぐランナーたちへのメッセージだ。


