レポート

科学のおすすめ本ー カブトムシとクワガタの最新科学

2012.08.14

笠原勉 / 推薦者/SciencePortal特派員

カブトムシとクワガタの最新科学
 ISBN: 978-4-8401-4619-7
 定 価: 740円+税
 著 者: 本郷儀人 氏
 発 行: 株式会社メディアファクトリー
 頁: 186頁
 発行日: 2012年6月30日

 人生における「恐竜リテラシーの変遷」という話がある(注1)。人は子どもの時に恐竜リテラシーのピークがあり、その後はいったん下がる。次に、子どもを持った時に再び上がり、さらに孫ができた時にまた復活するという。夏の昆虫の代表格のカブトムシやクワガタも似ている。野山に分け入り、我先にと捕まえて、オス同士を闘わせたり、大きさを友達と競い合ったりと、夢中になった子ども時代。いつしか忘れかけたこのワクワク感を、大人になった今、ふたたび子どもと思い出す。「カブトムシのエサは何がいい」「クワガタはこの木にいるはずだ」などなど、かつてのノウハウをわが子に披露したくなる親御さんも多いだろう。

 そんな日本人なら誰でも知っているメジャーなカブトムシとクワガタだが、驚くことに、その生態や形態はまだまだ知られていないことだらけ、なのだそうだ。本書は、その研究の第一人者である著者が、一般向けに書き下ろした初めての本である。

 知っていそうで知らない虫たちの生態が、著者の地道な野外観察と、進化論に基づく検証によって次々と明らかにされていく。大きさの違うカブトムシのオスたちの闘い方、メス同士の激しい争い、ミヤマクワガタとノコギリクワガタとの喧嘩(けんか)技などが、イラスト入りで詳しく説明されている。彼らの求愛行動の妙は、読んでいて何ともおかしい。

 さらに、虫たちの生態に加えて、著者の観察行動がまた興味深い。著者は10年以上も夏の間、毎晩、夜の7時ごろから朝の5時まで野外観察を続けている。カブトムシとクワタガムシの「闘争行動」を研究するために、まずは対象地域すべてのカブトムシ、クワガタを識別すべく捕獲をする。捕まえた虫は捕獲場所と大きさを記録したうえで、番号をつけて放つ。その数、カブトムシだけで300番くらいまでになるとのことだ。著者は大雨の夜を除いて、この虫たちの闘いや求愛行動を、野外で一晩中観察し続ける。毎年夏の間に体重は5㎏も減り、さらには、蚊やムカデ、スズメバチの攻撃に身の危険を感じることも。まさに命がけの観察だ。しかしながら本書に悲壮感はなく、むしろ、謎を解き明かしていくドキドキ感が醸し出されている。これは著者のカブトムシとクワタガに対する愛情と、研究に対する情熱ゆえであろう。

 かつての“昆虫博士”だった大人に、子供に自慢したいお父さんに、夏が終わる前に一読をお勧めする。

 注1:サイエンスコミュニケータ養成実践講座フォーラム「サイエンスコミュニケーションの広がり」平成22年度成果報告会(2011年4月16日、国立科学博物館主催)特別講演(渡辺政隆氏) (SciencePortal)より

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