レポート

科学のおすすめ本ー にげましょう〜災害でいのちをなくさないために

2012.08.03

推薦者/サイエンスポータル編集委員

にげましょう〜災害でいのちをなくさないために
 ISBN: 978-4-7641-0646-8
 定 価: 1,300円+税
 著 者: 河田惠昭 氏
 編 集: 河田惠昭 氏/株式会社GK京都
 発 行: 株式会社共同通信社
 頁: 117頁
 発行日: 2012年4月17日

役に立つ防災の本は、専門知識が全くない人にも分かりやすくなければ意味がない。しかし、専門家以外ではまず理解困難か、何を最優先にすればよいのか結局、よく分からない防災本が多いのではないだろうか。災害の種類はさまざまで、多くの災害を網羅すること自体がそう簡単ではない。それぞれの災害に詳しい専門家が分担で執筆した結果、一般の人が読んでもすんなり頭に入らない内容になっている。そんな本も多いのではないだろうか。

著者は、京都大学防災研究所所長などを務め、かつ国、地方自治体の防災計画にも長く関わっているため、防災の研究だけでなく、実践現場にも詳しい。分担執筆という方法をとらず、「これだけは覚えておいてほしい」ということだけを1人で書いているのが特徴。最も注意すべきことが、災害ごとに一目で分かる表現で記されている。ただし、各章の最後の頁にはそれぞれの災害の危険が解説されており、こちらも簡潔で分かりやすい。「放出された放射性物質は風下方向を中心に広がる」など、今回の大震災で大きな反省点となった原子力発電所事故の特徴も的確に記されている。

もともとある自治体から頼まれたのがきっかけで書き始め、その時点で既に「避難」の重要性を強調する内容だった。発行直前に東日本大震災が起きたため、竜巻、火山噴火、津波、原子力災害などを急きょ書き加え、一層「逃げる」ことの大事さを理解させる内容になっている。持ち運びやすく、かつ絵本という形をとっているので、子供でも抵抗なく読めるだろう。

「大津波に襲われた沿岸部住民の約30%は避難せず、約10%の住民は津波が来るのをみて避難した」など、東日本大震災でも「逃げる」ことの重要性がいかに理解されていなかったなど、簡単なことが現実にはなかなかできない防災の難しさがよく分かる本でもある。

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