レポート

科学のおすすめ本ー 宇宙はすぐそこに-「はやぶさ」に続け-

2012.06.14

推薦者/サイエンスポータル編集委員

宇宙はすぐそこに-「はやぶさ」に続け-
 ISBN: 978-4-8062-0640-6
 定 価: 本体1,143円+税
 著 者: 澤岡昭 氏
 発 行: 中日新聞社
 頁: 141頁
 発行日: 2012年4月23日

著者の専門は材料だが、1979年東京工業大学助教授時代に、米スペースシャトルを利用して宇宙での材料・生物実験をしようという国家プロジェクトにかかわって以来、日本の有人宇宙開発計画において大きな役割を果たしてきた。大同大学学長の現在でも、「いつかは自分も宇宙で活動したい」という夢を持ち続けている希有な宇宙開発推進者だ。

この本は中日新聞の文化面に2009年6月から今年3月まで34回連載した記事を再構成したもので、アポロ計画やスペースシャトル事故など世界の宇宙開発史上、重要な出来事が自身の体験を織り込みながら分かりやすく紹介されている。もちろん小惑星探査機「はやぶさ」、月探査衛星「かぐや」、宇宙ヨット「イカロス」、国際電波望遠鏡計画「アルマ」、小型人工衛星「中部サット1号」、準天頂衛星「みちびき」など、日本の宇宙開発の最新動向を紹介する筆遣いも軟らかで、読みやすい。

一般向けの宇宙開発紹介本は、日本人宇宙飛行士の活躍に多くの行数を割いたものが多い。宇宙開発に関する展示も例外ではなく、新聞や放送も相変わらず日本人飛行士が宇宙に行くとなると大ニュースだ。この本も例外ではない。ただし、著者は最初の日本人宇宙飛行士(搭乗科学者)の選考作業からかかわってきた研究者である。第一期の宇宙飛行士候補者に選ばれたばかりの、毛利衛さん、内藤(現・向井)千秋さん、土井隆雄さんに対し、週1回3時間の宇宙実験ゼミで英語による講義もしている。3人に対する記述は、十分な敬意と同志的親愛感を示す一方、必要以上に英雄視したり、遠慮したりすることはない。

ゼミでの3人の印象を記した箇所など、著者ならではの表現ではないか。

「毛利さんと内藤さんは、(日本人宇宙飛行の)一番乗りを目指して火花を散らしていた。競ってゼミの予習をするので、講師役の私はいつもたじたじだった。一方、土井さんは博士号取得から日が浅く、…時々居眠りする姿に、大器晩成という言葉が頭に浮かんだものだ」

宇宙開発を紹介した記事では、期待や夢を語るのに比べると、例えば毎年400億円、開発費を入れると2015年までに1兆円もの国家予算が投じられるといわれる国際宇宙ステーション計画を含め宇宙開発の費用対効果を問うたものは、非常に少ない。著者は、「何のために日本が有人宇宙開発をするか」についても納税者の立場に立って真剣に考え、語る数少ない一人だ。

著者が関心を注いでいるのが、「宇宙トイレ」の研究である。「高齢社会で早晩深刻な問題になる高齢者用のトイレ開発につながるはず」という信念による。

「(国際宇宙ステーションで使用される大便器は)中心に向かって空気の流れをつくり、吸引する構造になっている。だが、飛行士の体調や食物の種類によっては、便がしりから離れにくいこともある。…どうしても尻から離れない時は、薄いゴム手袋を着けた手で便を握って切り離し、反対の手で手袋を裏返しにしてしばり、収納ケースに入れる」「医師でもある向井千秋飛行士から『特に日本人飛行士は植物繊維が多く含まれる食物を好むので、切れが良くないのよ』と聞いたことがある」

宇宙開発の抽象的な夢のような話ばかりに物足りなさを感じる読者も、満足し、時にニンマリするような記述がたくさん見つけられるのではないだろうか。

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