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2011年3月11日の東日本大震災以後、安全に対する意識の高まりから、「安心できる社会づくり」に向けた大きな動きが始まっている。エネルギーに対する価値観にも大きな変化が生じ、日本はもちろん、世界のエネルギーミックスをどのように選択するかが、ゼロベースで見直されようとしている。
本書のきっかけは、公益社団法人化学工学会が同28日に行った『震災に伴う東日本エネルギー危機に関する緊急提言』である。その大きな反響から、日本経済新聞のコーナー「経済教室」に「エネルギーと技術」のテーマで記事を連載するに至った。本書は全36回の連載記事をベースに、震災後の社会情勢の変化や技術動向に関する最新の情報を盛り込んで加筆修正し、「化学工学会緊急提言委員会編」として再編集したものである。現在のようなエネルギー利用のパラダイムシフトが進行する中で、まさに時宜を得た内容である。化学工学会には化学プラントや化石資源、再生可能エネルギー、環境などの広範囲な分野の研究者・技術者が集まっており、本書においても、わが国の将来のエネルギー供給体制の主力となる技術を要素からシステムまでを俯瞰(ふかん)して取り上げ、検討できる執筆陣をそろえている。
本書は「今日の社会をつくる電力技術」「これからのエネルギー供給を支える新技術」「災害に強くエネルギーを上手に利用する社会へ」の3つで構成される。その中では数多くあるエネルギー関連技術を網羅的に取り上げ、技術内容や可能性、エネルギー・ビジネスモデル、これからの課題について、わかりやすく解説している。1項目ずつ図表込みの4ページで読みやすく解説し、通勤や通学中に“一口読み”するにも適している。各項目の最後には重要な課題が一目でわかるように「まとめ」が付いており、エネルギーのベストミックスを考える視点を読者に与えてくれる。
初めの「今日の社会をつくる電力技術」では、現在日本で行われている主要な火力、水力、原子力、揚水の発電技術の実態を紹介し、電力の需要と供給をバランスすることの重要性とそれを支える技術ならびに電力市場について、現状と今後のあり方を紹介している。
「これからのエネルギー供給を支える新技術」では、新聞紙上で話題となっている、日本全体のエネルギー利用のベストミックスに向けた最新の技術(電力融通、太陽光発電、風力発電、地熱発電、バイオエタノール、バイオ燃料、非可食生物資源のエネルギー利用、燃料電池、蓄電技術、電気自動車など)について、最新情報を織り込んだ内容や、現在および将来の市場の可能性を紹介している。日本のエネルギー政策、エネルギー供給体制の見直し、さまざまなエネルギー供給技術の最適な組み合わせ(ベストミックス)のコスト、導入量、時期を考える上で役に立つ情報が簡潔に整理されている。
最後の「災害に強くエネルギーを上手に利用する社会へ」では、新しい安全で安心できる新しい活力ある社会を創ることを目指して、今後起こりうる技術革新、ライフスタイルと社会システムの変革について触れている。具体的には「コプロダクション」や「ヒートポンプ」「自家発電設備」「スマートグリッド利用」「将来のエネルギー需給予測」「将来の目標設定」「技術の未来予想図」「技術の未来予想を描く」などの項目を掲げており、未来のエネルギー・ビジョンを描きつつ現実的な解答を探す上で、大変参考になる内容である。特に、地方と都市が共生する社会、自然エネルギーの利活用、プラグインハイブリッド自動車、新しい蓄電装置の導入、スマートグリッド、エネルギー使用の見える化など、今まさに関心の高い話題が取り上げられ、読み甲斐がある内容である。
本書は、日本の将来のエネルギーを考える上で「道案内の役割を果たす」と言える。


