英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)
2011年12月、英国大学協会(Universities UK)は、英国の高等教育機関が国の経済成長を活性化させる重要な役割を担っていることをアピールするために、豊富なビュジュアル・データを使用した報告書、「Driving Economic Growth」を公表した。
今月号では、この英国大学協会報告書の中から、特に興味深いと思われる点を抜粋して紹介する。この報告書には、多くのデータがグラフや図を使ってわかりやすく解説されているため、興味がおありの方は原文を参照されることをお勧めしたい。(当月報では、紙面の関係などから原文のグラフなどを表に置き換えたりして、編集し直している)
【1. サマリー】
【国際競争力】
- 海外の競争国は高等教育に多大な投資をしている。例えば中国は、2020年までに米国と英国を合わせた数より多い大卒者を生み出すことを計画している。
- 現在、大卒者が50%以上を占めるマネージャーやシニア・オフィシャル、専門職、準専門職や技術職という3つの職種グループは、2017年までに英国で生まれる新たな職の80%近くになると予測されている。
- 2009年において英国の全成人の37%が高等教育修了資格を持っており、1997年の23%に比較して大幅に増加している。しかしながら海外諸国と比較した場合、全人口における技能水準(OECD第10位)と若年層人口における大卒率(OECD第6位)に関してはあまり振るわない。
- 研究開発に関する論文引用回数については、英国は世界水準に比べて生産性が3.5倍以上高く、米国、ドイツ、日本や中国よりも高い。この水準を維持するには、継続的な投資が必要である。
【イノベーション】
- 海英国経済の再編と将来の成長の多くの部分は、イノベーションを基にした産業にかかっている。これらのイノベーション型産業は大卒者の持つ技能を必要としており、例えば、クリエーティブ産業における大卒者の比率は、英国の労働市場の平均値の2倍近くなっている。
- 2000年から2005年において、イノベーションに活発な企業は全産業の6%しかなかったが、その間における雇用増の54%を生み出している。
【経済への貢献事例】
- 大学は就労者の技能の向上や再教育に重要な役割を果たしている。2009-10年度においては、約130万人の成人学生が高等教育機関にて学んでおり、成人学生の割合は英国永住学生の64%にも上る。
- 英国には多くの留学生が学んでいるが、海外の多くの大学が世界中から優秀な留学生を獲得することに熱心になってきているため、英国のシェアは危機に直面している。英国は米国に次いで世界で2番目に人気のある留学先であるが、2000年には10.8%あったシェアが2009年には9.9%と減少している。そのため、世界で最も優秀な留学生を英国に引き寄せ続けられるような、政府の政策が重要となる。
- 英国の大学の国際活動は、英国に多大な輸出収入をもたらしている。2009年度には、大学は英国経済に79億ポンド(約9,900億円(*1))の輸出収入をもたらし、その額は2025年には少なくとも169億ポンド(約2兆1,000億円)に達すると予測されている。
【2. 国際競争力】
2-1) 生産性

2-2) 高度技能経済に向けた国際競争

【3. イノベーション】
3-1) イノベーションと経済成長

3-2) 成長分野

3-3) 研究からイノベーションへ

【4. 大学との関係】
4-1) 生涯学習

4-2) 産学連携

4-3) 世界市場における英国の高等教育

4-4) 輸出産業としての高等教育

この「輸出収入」の内訳のトップ5は以下の項目である。
- 留学生の生活費等、キャンパス外での支出(大学による輸出収入の半分以上を占める)
- 留学生からの授業料収入
- 英国外にて英国の高等教育を学んでいる学生からの収入
- 海外からの研究助成金や契約研究収入
- 海外からのコンサルティング収入
【3. 筆者コメント】
- この英国大学協会資料は、同協会による「Higher education in focus」という出版シリーズの一環であり、英国の高等教育分野の貢献度を一般市民にもわかりやすくグラフやイラストを利用してPRしているところに特徴がある。運営費交付金の大幅削減を受けて、英国大学協会としてもこのような一般社会の理解を得るための広報活動がより重要になってきている。
- 英国の中小企業(従業員250人以下)の約4分の3が、契約研究、共同研究、コンサルティング委託など、何らかの形で大学と連携活動をしており、多くの中小企業が大学の持つ知見をうまく活用していることがうかがえる。
- 世界の留学生の数が2009年の370万人から2020年には700万人と、今後10年間でほぼ倍増するという予測しており、学生の世界的なモビリティーが今後ますます活発化することがうかがえる。これに伴い、各国による留学生の獲得競争が激しくなっていくのであろう。
注釈)
- 1ポンドを125円で換算

