レポート

科学のおすすめ本ー 世界で勝負する仕事術 〜最先端ITに挑むエンジニアの激走記

2012.02.13

増渕忍 / 推薦者/科学技術振興機構産学連携展開部

世界で勝負する仕事術 〜最先端ITに挑むエンジニアの激走記
 ISBN: 978-4344982475
 定 価: 780円+税
 著 者: 竹内健 氏
 発 行: 幻冬舎(幻冬舎新書)
 頁: 203頁
 発売日: 2012年1月30日

 フラッシュメモリは、書き換え可能で、電源を切ってもデータが消えない半導体メモリです。その特徴や利便性などから、パソコンや携帯電話、USBメモリ、SDカード、iPod、自動車など、今ではありとあらゆるエレクトロニクス製品に用途が拡大し、われわれの生活に欠かせない存在となっています。

 この本の著者は、フラッシュメモリの発明者である舛岡富士雄氏のビジョンに魅了され、氏のいる東芝に入社しましたが、当時社内ではフラッシュメモリの将来性が危ぶまれ、「お荷物状態」だったそうです。そのフラッシュメモリを、世界をリードした研究開発とビジネス交渉により、東芝の主力事業まで押し上げたのが著者たち気鋭のエンジニアです。

 著者は現在、東京大学の准教授という立場で、独創的な研究成果を次々と挙げています。40代半ばという若さながらも、情熱的で濃密な社会人としての人生がこの本には描かれ、凝縮されています。

 まず驚くのは、人生の大きな岐路に立ったときの決断の速さです。たった「一晩」の決断でも、行間から読み取れるのは、その時々の意志決定の背後にある確固たる哲学と情熱です。基礎研究を志そうとしていた修士時代に東芝入社を決めたとき、あるいはMBA(経営学修士)取得のために海外留学を思い立ったとき、半導体ビジネスの最前線にいて、すでに世界的な名声を得ていたにもかかわらず大学の准教授への転身を決めたときなど、いずれも背後には「自分のアイディアで世界を変えたい」という情熱があふれています。

 また、デザインなどが持てはやされているアップルは、自ら半導体の開発こそしていませんが、実は、非常に技術を深く理解し、半導体メーカーをリードしているエピソードなど、一消費者として非常に興味深いです。

 現在では、フラッシュメモリに当初から携わったエンジニアはすべて、著者も含めて(東芝を愛しつつも)退社してしまったそうです。著者は、大学での研究成果を企業の技術と統合し、新しい用途を開拓すれば「人の役に立てる」と考え、行動しています。このような研究者が数多く排出されれば、日本の産業競争力の強化につながる事例も数多く出てくるのではないでしょうか。

 最近では、基礎的な研究段階から大学と企業などと密接に連携していく「オープンイノベーション」のためのシステム構築が急務となっています。この本には、そうしたオープンな産学連携を進める上での障害についても書かれています。エレクトロニクス業界の関係者だけでなく、科学技術政策に関係する人たちにもぜひ一読をお勧めします。

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