レポート

2012年2月号「博士課程入学者の傾向とプロファイル <HEFCE Report:PhD Study, Trends and Profiles 1996/97 to 2009/10>」

2012.02.01

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 2011年10月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は、過去13年間における博士課程入学者の傾向とそのプロファイルの調査報告書「PhD Study, Trends and profiles 1996/97 to 2009/10(*1)」を公表した。今月号では、この60ページ余りHEFCE調査報告書の中から、サマリーと調査データの一部を抜粋して紹介したい。

【1. サマリー】

【博士課程入学者の全般的傾向】

  • 1996/97年から2009/10年にかけて、英国におけるフルタイムの博士課程入学者数は、9,990人から18,075人と81%も大幅に増加し、パートタイムの学生の伸び率を上回った。しかしながら、直近の2007/08年から2009/10年では、パートタイムの博士課程学生数の伸びが4,070人から4,715人と16%増えて、フルタイムの学生の伸び率を上回っている。
  • 英国出身のフルタイムおよびパートタイムの博士課程入学者数は2007/08年から2009/10年の過去2年間で、それぞれ21%増、17%増と、留学生も含めた中で最大の伸び率となった。しかしながら、1996/97年から2009/10年の13年間では、フルタイムおよびパートタイムの留学生(英国を除くEUとEU域外からの学生)の伸び率は、英国出身の学生の伸びを上回っている。
  • 特定の科目への博士課程入学者の傾向を見た場合、科目によって大きな差が生じている。例えば、1996/97年から2009/10年におけるフルタイムの博士課程入学者のコースでは、クリエーティブ・アーツやデザインのコースへの入学者数が4倍以上に増えたのに対して、獣医学や農学では入学者数が横ばいであった。

【学生の特性による博士課程入学者の傾向】

  • 2007/08年から2009/10年の2年間におけるフルタイムの博士課程入学者数の最大の伸び率は、以下の学生グループに見られる。
    • 女子学生は、7,070人から8,135人と15%増加した。
    • 21歳以下の入学者が、640人から785人と23%増加した。
    • 英国出身の入学者の内、黒人系の学生は165人から215人と29%増加した。
    • 何らかの身体的障害を持つ学生は、720人から975人と36%増加した。
    • 英国出身の入学者の内、博士課程入学の前年に修士号を取得した学生は710人から980人と38%の伸び、博士課程入学の2年以上前に修士以上の上級学位を取得した学生は2,045人から2,775人と36%の増加を示した。
    • 英国出身の入学者の内、授業料への主要な助成元が研究機関とした学生は1,560人から2,415人で46%の伸び、政府機関とした学生は450人から665人で47%の伸びとなった
  • 2007/08年から2009/10年の2年間において、パートタイムの博士課程入学者数の最大の伸び率は、以下のグループに見られる。
    • 男性の入学者数が、2,080人から2,420人と16%増加した。
    • 24-25歳の入学者数は、185人から235人と29%増えた。
    • 英国出身の入学者の内、アジア系入学者数が175人から240人と38%増加した。
    • 何らかの身体的障害を持つ入学者数は、200人から240人と22%増えた。
    • 英国出身の入学者の内、2年以上前に修士以上の上級学位を取得した学生数は1,335人から1,830人と37%の伸びを示した。
    • 英国出身の入学者の内、授業料への主要な助成元が政府機関とした学生は175人から250人と43%増加した。

【2. 統計データ】

 下のデータには、紙面の関係からHEFCE報告書データを編集し直した個所がある。

【フルタイム、パートタイム別:博士課程入学者数の推移】
【フルタイム、パートタイム別:博士課程入学者数の推移】
【2009/10年:フルタイム・パートタイム別、出身国別、博士課程入学者】
【2009/10年:フルタイム・パートタイム別、出身国別、博士課程入学者】
【2009/10年:科目別、フルタイム・パートタイム別、博士課程入学者】
【2009/10年:科目別、フルタイム・パートタイム別、博士課程入学者】
【1996/97年-2009/10年:科目別、フルタイム博士課程入学者】
【1996/97年-2009/10年:科目別、フルタイム博士課程入学者】
【2009/10年:科目別、出身国別、フルタイム博士課程入学者】
【2009/10年:科目別、出身国別、フルタイム博士課程入学者】
【2009/10年:フルタイム・パートタイム別、性別、博士課程入学者】
【2009/10年:フルタイム・パートタイム別、性別、博士課程入学者】
【1996/97年-2009/10年:性別によるフルタイム博士課程入学者数の推移】
【1996/97年-2009/10年:性別によるフルタイム博士課程入学者数の推移】
【2009/10年:科目別、フルタイム・パートタイム別、年齢別、博士課程入学者】
【2009/10年:科目別、フルタイム・パートタイム別、年齢別、博士課程入学者】

筆者注:イングランド地方の大学では、通常は学士課程が18歳から3年間、その後に修士課程が1年間、博士課程が3-4年間であるが、多様なコースがあり、詳しくはBritish Council のウェブサイトを参照乞う。

【2009/10年:入学前の取得資格別、出身国別、フルタイム博士課程入学者】
【2009/10年:入学前の取得資格別、出身国別、フルタイム博士課程入学者】

【2009/10年:授業料助成元別、出身国別、フルタイム博士課程入学者】
【2009/10年:授業料助成元別、出身国別、フルタイム博士課程入学者】
【2009/10年:授業料助成元別、出身国別、パートタイム博士課程入学者】
【2009/10年:授業料助成元別、出身国別、パートタイム博士課程入学者】
【1996/97年-2009/10年:授業料助成元別、英国出身フルタイム博士課程入学者】
【1996/97年-2009/10年:授業料助成元別、英国出身フルタイム博士課程入学者】

【3. 筆者コメント】

  • 2009/10年度において、フルタイム、パートタイムを含め、医学および生物科学関連科目への博士課程入学者が全体の27%を占めており、英国におけるバイオ・メディカルへの関心が高いことがうかがえる。
  • 2009/10年度の女性の博士課程入学者は、フルタイム、パートタイムを合わせて全体の46%を占める。また、過去13年間では男性の博士課程入学者数の伸び率が28%増に対して、女性では119%増と大幅に増えており、女性の博士課程入学が活発になってきていることがわかる。
  • 2009/10年度の21歳以下の入学者は785人もいるが、これは学士課程から博士課程へのいわゆる飛び級を認めている大学や、初等中等教育においても飛び級があるため、例えばブラウン前首相のように16歳で大学に入学する学生もいるためであろう。
  • 2009/10年度において、授業料を自己負担するフルタイムの博士課程入学者数は全体の33%を占めるが、パートタイムの場合は73%と大幅に比率が高い。働きながらパートタイムで博士課程に入学する学生の多くが、授業料を自己負担している様子がうかがえる。

注釈*1
http://www.hefce.ac.uk/pubs/hefce/2011/11_33/11_33.pdf
http://www.hefce.ac.uk/pubs/hefce/2011/11_33/

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