レポート

科学のおすすめ本ー 茂木健一郎の科学の興奮

2012.01.30

立花浩司 / 特派員/推薦者/SciencePortal

茂木健一郎の科学の興奮
 ISBN: 978-4-532-52064-9
 定 価: 1,600円+税
 編 著: 茂木健一郎 氏/日経サイエンス編集部
 発 行: 日経サイエンス社
 頁: 144頁
 発売日: 2011年12月8日

本書に収載されているのは、一般読者向けの科学雑誌「日経サイエンス」に2009年10月から2010年11月にかけて連載された、珠玉の対談記事だ。インタビュアーの茂木健一郎氏が、12人にわたるさまざまな分野の科学研究者の素顔に迫っている。

研究者コミュニティ内部の発表などでは往々にして捨象されがちな現場知、これまでの研究の変遷、あるいは相場観といったものすべてを包含する「科学の営み」が、対談の中から透けて見えてくる。本書の主たる対象は研究者ではなく一般読者である。つまり、読者は必ずしも科学者それぞれの持つ専門知だけを特異的に知りたいのではなく、現場で行われる研究活動を通じて彼ら固有のものの見方、考え方を知り、そのことによって自己の生き方や考え方に反映していきたいという意図のほうが強いのではないかと想定される。そういった読者からの潜在的な要望に応えるため、研究者に一方的に語らせるのではなく茂木氏が巧みに研究の内容を読み解きつつ双方向的な対話にまで持ち込み、コミュニティの外側にいるとなかなか見えてこない「科学の営み」の面白さを浮き彫りにしただけでも本書の価値がある。

いくつか、具体的な内容について触れてみたい。

東京大学の中須賀真一氏は超小型衛星「Nano-JASMINE」について言及し、今後の期待について熱く語っている。「Nano-JASMINE」は市民のボトムアップ型サイエンスカフェである「顔の見えるサイエンス・テール」でも2011年10月に取り上げられており、一般の関心も生まれつつある(類似の超小型衛星「まいど1号」についても「すいたサイエンスカフェ」が2011年12月に取り上げている。破壊的イノベーション(あるいは創造的破壊)によって衛星のコストがあるしきい値を超えて安価になれば、応用が広がり新産業の創出が期待されるというのだ。創造的破壊というと、粗利益がとれなくなって開発資金が回収できないというネガティブな話をしばしば耳にするが、翻って考えれば創造的破壊によって新たな市場が生まれることによって雇用の拡大も見込めよう。具体的かつ刺激的な内容だけに、一般読者のわれわれも引きずられてこころ躍らされる。

また慶應義塾大学の鈴木忠氏は、自身の研究対象であるクマムシについて言及し、クマムシに秘められた生態の奥深さを得々と語っている。彼も、一個人が立ち上げたサイエンスカフェである「ネイチャー&サイエンスカフェ」において2007年3月に取り上げられている。宇宙空間に暴露しても帰還後に蘇生する最強の生き物クマムシの生態に惹かれ、ライフヒストリーを追ってフィールド調査を続けているという。研究評価の議論において、しばしばコスト-ベネフィットの議論に落とし込まれ、科学そのもののもつ探究心の原点が見失われているように感じることが多くなった昨今、純粋に「やっていて面白い」という、科学することの原点を思い起こさせるのに十分な話題と言える。

仮に科学研究と直接日常的に関わっていなくても、現状に行き詰まり感を持つ人たちにとって、本書は一服の清涼剤になること請け合いである。

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