英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)
【1. はじめに】
2011年7月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)はイングランド地方の大学やコレッジにおける、HEFCEが助成するインターンシップ支援策への効果に関する報告書「Increasing Opportunities for High Quality Higher Education Work Experience」を公表した。
この報告書は、HEFCEがコンサルタント企業のOakleigh Consulting社とCRACという非営利のキャリア・ディベロップメント団体に委託した調査結果である。今月号では、この160ページ近い報告書の中から、データを中心に、ほんの一部のみを抜粋して紹介したい。なお、以下に紹介するデータの中には、紙面の関係から一部省略したり、編集し直したりした個所もある。
【2. HEFCEによる報告書の紹介文より】
- 2010年、HEFCEは学士課程以上を最近終了した人たち向けのインターンシップを支援するため、イングランド地方の57の大学やコレッジに対して1,280万ポンド(16億6,000万円*1)の助成支援を行った。これにより、2011年3月までに7,600人がインターンシップを経験した。HEFCE以外の公的助成スキームを含めると、合計約16,000人の学士課程以上の修了者がインターンシップに参加したことになる。
- * このHEFCEによるインターンシップ・イニシアティブは、卒業してから日が浅く、かつ職を持たない人たちを支援すると同時に、中小企業や優先的経済分野を支援するために立ち上げられた。
- 2010年夏には、家庭的、経済的に恵まれていない学士課程在学中の学生に対して、専門分野でのインターンシップを支援するため、HEFCEはイングランド地方の30の大学およびコレッジに100万ポンド(1億3,000万円)の助成を実施した。これによって、約850人の学部在籍中の学生がインターンシップを経験している。
- 当調査報告書によると、学士課程以上の修了者を対象としたインターンシップ参加者のうち、28%がインターンシップ終了後に継続的に同じ企業に就職している。また、18%がその他の企業の長期採用となっているため、約半数が長期的な仕事を見つけていることになる。その他の14%は短期雇用、15%は失業中、13%が勉学を継続中またはボランティア活動に従事している。
- HEFCEインターンシップ制度に参加した企業のうち、81%が小企業(従業員50人以下)、11%が中小企業(従業員51人から250人)であり、大企業は9%以下であった。71%の参加企業は将来もインターンシップを提供したいと積極的であった一方、5%のみが否定的であった。
- 学士課程在籍中の学生のインターンシップに関しては、55%の参加企業がインターンシップの成果を見て、特に中小企業や初めてインターンシップ制度を活用した企業を中心に、これからも学士課程在籍学生にインターンシップを提供したいとしている。
- 学士課程在籍学生や学士課程以上の修了者の多くは、インターンシップを経験して就職に役立つスキルを学ぶことができ、自信がついたと報告している。また大部分の企業は、インターンはビジネスにとって新しいエネルギーと新鮮な見方をもたらし、インターンの価値は予想以上であった、とコメントしている。
- 当調査報告書は、大学、学生及び雇用者に対してインターンシップの利点を、以前にも増して伝える努力をすべきと提言している。これは今後、政府やパートナー組織と一緒になって取り組むべき、HEFCEの優先課題の一つになっていくであろう。
【3. インターンシップの規模】

(上記の表は、HEFCE助成のインターンシップのほか、その他の政府支援の公的制度や私的なインターンシップ制度等を含む、全体的な推定規模を示す)
- 上記の「学士課程以上の修了者」には学士課程修了者のほかに、学士課程修了後、2-3年しか経っていない修士課程や博士課程の在籍者や修了者も含む。
- 「サンドウィッチ・コース」とは、通常はイングランド地方の3年間の学士課程を4年間として、第2年度以降に数カ月から1年間のインターンシップを経験するコース。 特に建築、コンピューター科学等の工学・技術関連が約3分の1、経営関連が3分の1と大きな比重を占める。また多くの場合、サンドウィッチ・コースのインターン期間中、インターンに対する賃金は支払われない。
- 2008・09年度のHESAのデータによると、約115,000人の学生がインターンシップを経験できるサンドウィッチ・コースに在籍している。これはフルタイム、パートタイムを含めた全学生の約6%、フルタイム学生の約9%にあたる。そのうち、毎年30,000人近くが実際にインターンを経験していると推測される。
【4. インターンシップへの主な障壁と支援】
4-1) 雇用者にとっての主な障壁


4-2) 雇用者への支援


4-3) 学士課程以上の修了者向けインターンシップを提供する雇用者の業種

- 「Graduate Talent Pool」制度は、産業や高等教育を所管するビジネス・イノベーション・スキルズ省(BIS)と産業界とのパートナーシップ事業であり、最近卒業したばかりの大卒者に企業などでのインターンシップの紹介や助成をすることを目的とする。現在は、2008年から2011年に学士課程を終了した人たちが支援対象となっている。
【5. 学士課程在籍学生向けインターンシップ】
5-1) 学部学生の動機

5-2) 雇用者の動機

5-3) 雇用者に対する経済的支援の重要性

5-4) 学生への支援

5-5) 学生への主なインパクト


【6. 学士課程以上の修了者へのインターンシップ】




- 筆者注:英国の大学の学士課程卒業成績は成績の良い順から、First Class Honours, Upper Second Class Honours(2.1)、 Lower Second Class Honours(2.2)、 Third Class HonoursおよびPassに分けられる。
【7. 筆者コメント】
- 2008年度のデータでは、全学生の約6%にあたる115,000人ほどがサンドウィッチ・コースに在籍しているが、2012年度から始まる授業料の大幅値上げに伴い、今後は授業料ローン返済負担を考慮して、在籍年数を減らすという傾向も一時的にはみられるかも知れない。
- 学士課程在籍学生向けのインターンシップを提供している企業の23%が、インターンシップ提供の動機を「社会的責任を果たすため」と回答しているのには感心した。
- 学士課程以上の修了者向けインターンシップを提供している企業のうち、9%と数は少ないが、「正規従業員に指導監督の役割を与え、正規従業員のキャリア開発に活用するため」と答えた企業があり、インターンの提供にこのようなメリットもあることを知った。また、21%が「大学とのより良い関係を築くため」としており、大学の持つ知見や人材を活用したいという企業の意気込みが感じられた。
- 英国政府発表の2011年11月の失業者数は262万人、失業率8.3%と1994年以来の高水準となった。特に、16歳から24歳の若年層の失業者数は102万人になり、その失業率は21.9%と1992年以来の最高水準である。今後、景気対策と共に社会問題になってきている若者の失業問題は政府の重要課題の一つになっていくであろう。それに伴い、インターンシップ制度へのテコ入れもあるかも知れない。
注釈)
- *1 1ポンドを130円で換算