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新しい研究分野やビジネスを切り開くためには、「創造力」が大事である。では、この「創造力」を高めていくためには、何が必要で、何が邪魔になるのか。
本書では、1993年に世界で初めて白色有機EL(エレクトロルミネッセンス)の開発に成功し、有機エレクトロニクスの世界的権威である山形大学教授の城戸淳二先生と、日本のITビジネスの黎明(れいめい)期から数多くの新たなビジネスを生み出してきた実業家の坂本桂一氏という、真の「創造者」である2人が、「創造力」について、熱く語り合います。
対話の内容は、子供のころのエピソード、教育、研究開発、ベンチャービジネスまで、多岐にわたりますが、大別すると「新しい価値を生み出すために重要なこと」と「子供の教育に重要なこと」という2つの側面で、創造者の生の声に触れ、大きな示唆を得ることができると思います。
では、新しい価値を生み出すためには何が重要なのでしょう。
城戸先生の白色有機ELは、学生が「先生、すみません。赤になりませんでした」と言ってきた失敗作が、当時の常識では考えられない白色に光っていたことから始まったのだそうです。そこから、「なぜ白になるのか」を猛烈に考え、再現するための実験を繰り返した。城戸先生は、言います。「失敗を許す環境がなかったら、あるいは失敗を忌避するような環境だったら、生まれてこなかったかもしれません。創造する力とは、失敗する力と裏腹なのでしょう」
この「失敗を成功にする」力の源泉は、何か。坂本氏の言葉から幾つかヒントが得られます。「ロジックにとらわれると、最初から『できない』になる」、「優れたアイデア1つでは、ビジネスプランになり得ない」、「リスクを取った経験が少ないと、チャンスを棒に振る」。
活躍される分野は違いますが、2人の考え方や行動パターンには、予想以上に共通点があることに驚かされます。坂本氏によると、共通点は以下の3点だそうです。2人の域に達するのはそう簡単ではありませんが、心がけたいと思わされる敷居の低さも一方であると思います。
- 年齢にかかわらず、世間一般でのバカなことを、バカと思わず突っ込んでやってみる好奇心
- 怖いもの知らずの行動力
- 圧倒的な読書好き
一方、子供の教育に重要なことは何でしょう。
特に印象に残ったのは、坂本氏の小学生時代のエピソードです。ある上級生の影響から、京都大学の地学関係の研究会に出入りしていたそうですが、そこで総合的に学んだことは、学校の先生から教えてもらったことよりも、はるかに大きかったと言っています。子供のころからプロフェッショナルと交流する機会の重要性を感じました。
高校時代のエピソードも素敵です。数学の先生は、読めば分かる教科書を説明するのはバカらしいと言って、授業は、交流のあった著名な数学者の話や大学時代の話などの雑談ばかりだったそうですが、その先生が受け持つクラスは、断トツで成績が良かったのだそうです。子供は、モチベーションさえ上げれば、自ら勉強するし、競争意識が無くとも伸びていくのでしょう。
タイトルに「理系」という言葉があるので、読者層が限定されるのが心配ですが、前書きに書いている通り、本書は「創造力を高めたいと思う多くの方々に希望を与えられるような、どんな仕事にも役立つ創造力を手に入れるための、ヒントに富んだ内容」です。ビジネスマンや教育関係者だけでなく、専業主婦や学生の方々にも、お薦めしたい本です。