レポート

英国大学事情—2011年11月号「2011年度・英国民の科学への意識度調査結果 <BIS:Ipsos MORI「Public Attitudes to Science 2011」>」

2011.11.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 2011年5月、ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)が大手世論調査会社のIpsos MORI社に調査委託をした2011年度の「Public Attitudes to Science 2011」の調査結果が公表された。当調査は第4回目であり、英国科学協会(British Science Association)の協力の下に、一般市民を対象としたワークショップや16歳以上の約2,100の英国の成人を対象としたアンケート調査を行った。なお、アンケート調査に回答を寄せた市民には、個別の面談も実施している。今月号では、この調査結果のサマリー・レポート から、一部を抜粋して紹介する。(なお、以下の表の一部は、紙面の関係で編集し直している。詳細な調査結果は、130ページ近いフル・レポート を参照乞う)

【1. 市民は科学をどのように見ているか?】

【主要指標】

【科学の発展によるリスクと利益】

  • 「Sciencesという言葉から何を思い浮かべるか?」との問いに、若年層では生物学、化学、物理学との答えが多かったが、年配者ではヘルス、薬剤、治療との回答が多い。
  • 56%が「人類は、むやみに自然に干渉すべきではない」と答えたが、これは2008年の70%に比べて大きく減少している。

【2. 科学に関する情報】

【主要指標】

【自然科学や社会科学に関する情報】

  • 「科学に関する情報を見聞きすることがあまりない」とする回答者は、2008年度調査に比べて17%増加した。「科学や科学の研究開発に関して、十分な情報が伝えられている」とした回答者は43%と、2008年度調査に比べて12%減少して、2005年度の水準となった。
  • 科学に関する主な情報源は、テレビ(54%)と新聞(32%)と回答した。19%が、最も利用する二つの情報源の一つにインターネットを上げたが、16歳-24歳の若者は、より多くインターネットを利用する傾向にある。
  • 「近年、新たな科学の発展を知ることがより容易になった」とした回答者は49%となり、2000年度に比べて13%増加した。
  • 63%が「科学技術はあまりに専門化しすぎて、一般市民には分かりづらい。」と回答し、2008年度比7%増加となった。

【3. 科学への信頼】

【主要指標】

【ワークショップ参加者の意識】

  • ワークショップ参加者の多くは、「科学ジャーナルは掲載する情報を厳密にチェックしているため、より信頼が置ける」とコメントした。
  • 多くのワークショップ参加者は、「新聞はしばしば科学に関する悪いニュースに焦点を当てるため、新聞報道に対しては科学ジャーナルほどの信頼を置いていない」としている。しかし参加者は、新聞の科学ジャーナリストは記事について深い知識を持っていると考える傾向にある。
  • 参加者は、スクリーンでエビデンスを直接的に見ることができるため、科学情報の提供手段としては、新聞よりテレビにより大きな信頼を置いていることがうかがえる。
  • 多くの参加者は、「インターネットでは同一の課題について相反する多くの意見が載せられるため、どれを信じていいのか判断に苦しむ点がある」とコメントした。また、「インターネット情報の中には、誰でも編集できるウェブサイトもあるため、インターネット情報は新聞より信頼が置けない」との懸念も出された。

【4. 科学への規制】

【主要指標】

  • 研究への規制に対する信頼度については、大学の科学者(80%)、チャリティー研究機関の科学者(70%)、環境グループの科学者(65%)、政府内の科学者(62%)、企業の科学者(48%)と、大学の研究者への信頼が一番厚かった。

【5. 市民とのコンサルテーションと市民の参画活動】

【主要指標】

  • 一般市民とのパブリック・コンサルテーションは、「市民の意見を反映していない」または「政府のPR活動にすぎない」という皮肉な意見も約半数あり、2005年度調査以来、同様な結果となった。

【6. 市民の生活における科学】

【主要指標】

【科学関連レジャー活動への参加】

【学校の科学授業への意見】

  • 多くのワークショップ参加者は、「科学が娯楽やポピュラー・カルチャーの改善にも貢献している」としており、「特定の技術革新が、アーツ、音楽またはテレビのような文化の向上をもたらした」とのコメントもあった。
  • 科学に関連した活動は、主に家族と一緒のレジャー活動の一種とみなされる傾向がある。回答者の多くは友人とではなく、「子供やパートナーのような家族の一員と一緒に科学博物館、ディスカバリー・センター、動物園やプラネタリウムに行った」とコメントした。
  • 科学に関連した活動は、少女より少年のための活動とみなす傾向があり、多くが「科学に関連した活動には息子と一緒に、アーツ・ギャラリーには娘と一緒にいくことが多い」と回答した。
  • 学校での科学授業に関しては、24%が「授業によって科学が嫌いになった」と回答しており、2005年度の20%、2008年度の21%に比べて上昇傾向にある。
  • 51%の回答者が、「科学の授業の質は、他の学科に比べてほぼ同等である」と答え、21%がより良い、17%がより劣るとコメントした。より劣るとした回答者は、2008年度に比べ7%減少した。

【7. 筆者コメント】

  • 今回の調査は第4回目であるが、90%近い回答者が科学者は社会に対して有益な貢献をしているとしており、英国における一般市民の科学および科学者への意識が全般的に高いように感じる。
  • 研究への各種規制の遵守に関しては、民間企業の研究者より大学の研究者への信頼が大幅に高いのは興味深い。それだけ、社会における大学のステータスが高いことの現れであろう。
  • 学校での科学授業に関しては、24%が授業によって科学が嫌いになったと回答しており、17%の回答者が科学の授業の質は他の学科に比べて劣るとしている。これらの原因をフル・レポートの調査結果から探ってみると、科学の先生の教え方があまり良くない(45%)、科学にあまり興味がない(27%)、科学の先生が好きでない(12%)、科学の授業が難しすぎる(10%)がトップ4に挙げられており、生徒の科学に対する態度を改善するには、科学教師の役割が非常に重要であることがわかる。
  • 68%の回答者が「科学の仕事に、非常に興味を覚える」としているが、16歳-24歳の若年層では60%と、多少低い傾向が見られる。
  • 61%は「エンジニアリングの仕事に、非常に興味がある。」、58%が「他の職業に比べ、エンジニアリング職の給与が高い」と回答した。しかしながら、最近の別の調査(FreshMinds/EngineeringUK)によると、法律家、医師、会計士などの専門職と比較した場合、エンジニアリング職の給与は低いという結果が出ている。また、36%が「英国におけるエンジニアリング産業は衰退産業である」とする一方、39%が「衰退産業ではない」と意見が拮抗(きっこう)している点が興味深い。
  • 一般市民とのコンサルテーション・イベントに関しては、「一般市民の意見を反映していない」または「単にPR活動であり、政策へはなんらの影響力もない」という辛らつな意見が約半数を占めており、パブリック・コンサルテーションへの理解を促進することは大変であると感じた。

注釈)

  • 学校、コレッジ、大学の課外活動としての科学のレクチャーやトークなど

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