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福島第一原子力発電所事故を機に再生可能エネルギーに対する関心が急に高まっている。同時に、日本のこの分野に対する投資額が欧米、中国、インドなど海外諸国よりはるかに小さいことが多くの人の知るところとなった。再生可能エネルギーの中でも期待が大きい太陽電池について分かりやすく解説してくれる本が、タイミングよく刊行された。
この種の本で省くことができない太陽電池の原理についてももちろん最初に説明されている。しかし、専門的記述が続き読者が早々とつまずいてしまう心配はなさそうだ。「ソーラーパネルに家電を直結しても動かない理由」といった項目を挿入、身近な話題から直流と交流の違いをさりげなく学べるような配慮も施されている。
オバマ米政権の登場でにわかに注目されるようになったスマートグリッドについても、単なる技術的な説明や意義についての講釈に終わらない。「元来は、受給ミスマッチによる停電を防ぐ目的で提唱された」と、電力会社の経営基盤がしっかりしていた日本では関心やニーズが高くなかった事情にもきちんと触れている。
多くの人の関心が高いコストに関しての説明も親切だ。発電効率が年月とともに劣化するのではという心配に対しては、太陽電池の表面を洗浄したら低下した効率が回復したという自身の経験を基に分かりやすく答えている。コスト以前に、太陽電池をつくるのに要したエネルギーが、発電で得られるエネルギーよりはるかに大きくては話にならない。投じられたエネルギーの回収時間、つまりエネルギーペイバックタイムはどのくらいか。挙げられた数字を見て、読者は納得すると思われる。
ありふれた材料で太陽電池をつくる新しい研究開発の意義や、サハラ砂漠に太陽電池を並べ、現地で利用した残りの電力を超電導ケーブルで世界中に送電する大構想など…。科学技術を取り巻く社会の動向にも絶えず目を配っている著者ならではの新しい情報も盛り込まれている。画家でもある著者が文章以上に時間をかけたのではと思われるイラストも、分かりやすく楽しい。