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「ふしぎ植物探検記」と銘打たれていますが、本書はそれら不思議な植物と切っても切れない関係にある虫たちについて書かれた本でもあります。植物の虫たちを巻き込んだ送受粉の戦略には驚嘆するばかりです。いったいどうやってそのように進化したのでしょう? 進化したものだけが現在生き残っているだけなのでしょうか? 思わず考え込んでしまうくらい、本書では植物と昆虫の緻密なまでに計算され尽くされた関係も解説されています。
本書は不思議な植物をただ単に羅列した本ではありません。おおよそ10ほどの植物がそれぞれ10の章に分かれて扱われています。そして奇異なその植物一つ一つについて著者自らが体験を通して学んだ視点を盛り込みつつ、その植物の生活史がしっかり解説されています。第一章で取り上げられている「世界一大きな花—ショクダイオオコンニャク」は昨年東京の小石川植物園での開花が話題になったので記憶に残っている方もいらっしゃるかもしれません。またその他、「奇想天外」なんていう名のついた植物や、遺跡を飲み込まんばかりのアンコールワットの絞め殺しの木など、面白い植物が登場してきます。
著者はまえがきで撮影にかかったこれまでの膨大な時間について次のように語っています。「今振り返ってみると、この無駄の繰り返しがいかに重要であったかが身にしみて分かる。無駄のように感じる時間を過ごしてこそ、独自の視点が生み出されるのだ。無駄な時間のなかの模索の繰り返しで一つが見えると次が見えてくる。この無限の連鎖が私に教えてくれたことはあまりにも大きい」
現代社会においては、どうしても効率化や合理化が重要視されます。もちろん、それもとても大切なことです。でも、「素敵な無駄」を重ねることは、その人の人生をより豊かに彩ってくれるような気がします。自然を対象としたときは、それらに寄り添いじっと観察し続けることでしか見えないこと、撮れない瞬間というものがあるということが、この本を読むとよく分かります。
効率的?合理的アプローチなんて通用しないのです。それはとてつもなく根気のいる作業です。そしてそこには純粋な好奇心があるのでしょう。本書はそういった膨大な時間を背景にし、形にした一冊です。