レポート

科学のおすすめ本ー 企業研究資金の獲得法

2011.02.07

立花浩司 / 推薦者/SciencePortal特派員

企業研究資金の獲得法
 ISBN: 978-4621083031
 定 価: 1,900円+税
 著 者: 永井正夫 氏、根本光宏 氏、田村元紀 氏
 発 行: 丸善
 頁: 164頁
 発売日: 2010年12月16日

大学研究者が企業と共同研究を行う場合、企業がどのような経営・市場環境のもとに研究開発をとらえ、大学などの外部研究機関とどのような協力・提携を欲しているのか、現場に根差した実例をもとに、要領よくまとめられている。本書の冒頭にある「大学の研究者、企業経験者、政策立案経験者がこれまでの経験をもとに、大学や研究機関の現場の研究者がなるべくストレスを感じずに、企業との協働行為を行えるような案内書」は、本書を除くと少なくとも国内ではほとんど例がなかったように思われただけに、注目に値する。

共同研究の成功例を示すことに終始せず、失敗例についても豊富に取り上げていることにも好感が持てる。「教員の異動で共同研究中止」という事例は、筆者自身も実務で経験し、そのことに対する不信感は当事者である大学研究者個人にとどまらなかっただけに、単に笑い事では済まされない重篤な信用問題として認識しておく必要があるだろう。また「組織的連携に固執」して失敗したという事例も、これまでに間接的にいくつか見聞きしており、まさに自分自身に降りかかってきた問題として、身につまされる思いがした。他にも思わずかたずを飲んでしまう「本音を語った」文面が散見され、ノンフィクションの読み物としても強く引かれるものがあった。

本書を通じてあらためて気づかされるのは、大学と企業との共同研究を成功に導くために重要なことは、お互いにお互いのことをよりよく理解し、相手の立場に立って考えるという当たり前のことを外さないということだと思われた。企業で勤務した経験のない、生え抜きの大学研究者の場合、企業の立場に立って考えるということが、頭の中では理解できても実際にどのように行動すればよいのか、分かりづらく困難を来すことが想定される。まして、共同研究によって生み出される成果の社会的インパクトはどれくらいで、どの程度の市場規模になると推定され、企業にとっての優先順位はどれくらいのものであるかといったことに関しては、技術ロードマップや技術マーケティングのセンス、相場観が強く求められる。

すべての意思決定を、研究者ひとりの手で行うことは極めて難しい。従って、むしろ公的資金による基礎研究で実績を積んで、学会や展示会などの場で外部との接点を持ち、さまざまな人たちと出会い協力者を増やす機会をつくっていくというのが、回り道のようであっても王道なのだと思われた。まず「企業内に理解者を得る」というのは、まさに「企業研究資金の獲得」のための第一歩と言えよう。

ただ、本書のタイトルから推察して、「企業研究資金の獲得」に関心の高い大学研究者のみに読者層が限定されてしまうことが懸念される。むしろ「よりよい共同研究のために」などとした方が良かったかも知れない。ともあれ、大学と企業との共同研究のあるべき姿を俯瞰(ふかん)するための実例豊富な案内書として、産学連携に関心をもつ多くの方々の目に触れられ、広く利活用されることを強く期待したい。

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