レポート

科学のおすすめ本ー 数学に恋したくなる話

2011.01.12

神村章子 / 推薦者/SciencePortal特派員

数学に恋したくなる話
 ISBN: 978-4-569-79427-3
 定 価: 800円+税
 著 者: 秋山仁 氏、松永育子 氏
 発 行: PHP研究所
(PHPサイエンス・ワールド新書)
 頁: 252頁
 発売日: 2010年12月3日

著者である数学者・秋山仁氏というと、髭(ひげ)に長髪そしてバンダナという独特な風貌をすぐに思い浮かべる人も多いだろう。本書は、自ら出演している、普段数学に親しみのない方にも楽しんでもらえるように構成されたNHKラジオのカルチャー講座の内容を中心に、まとめたものだ。

推薦者は以前、秋山氏の講演を聞いたことがある。大学の大講義室で行なわれた記念講演だった。聴衆でいっぱいの会場にいつものスタイルで登場した筆者が、ホワイトボードにはられたカードや模型を使って、数学の公式を目で見える形で証明していく様子は驚きであり、あっという間に独特の世界に導かれていった。本誌の後半にも登場する「四面体のタイル」の話も記憶に鮮明に残っており、身近に存在する数学の世界に魅了された。

本書は、13章に分かれており、それぞれ「1章:自然と数学」や「8章:絵画と数学」のように、数学と他の世界とのかかわりを、いくつかのエピソードとからめて分かりやすく紹介されている。いかに数学が自分たちの生活と密着しているかを再確認させられ、いずれのエピソードも興味深いものだ。それぞれの項目は独立しており、どこから読んでも楽しめる工夫がされている。

また、2010年の出来事もふんだんに取り上げている。例えば、昨年2度目のイグ・ノーベル賞を受賞した「粘菌」は、スーパーコンピューターより賢いヤツとして登場し、また、日本中が大いに沸いたサッカーのワールドカップ南アフリカ大会で、一躍有名になったマダコのパウル君が確率の場面で登場したりする。さらに最近また人気の出てきた江戸時代の数学・和算についても触れられている。和算の第一人者として知られている関孝和は、ニュートンと同じ年に生まれている。西洋の情報が入って来ない中、ニュートンやライプニッツが微積分学を始めた時代に、関らも微積分の理論に匹敵する研究を独自に進めていたという。そのエピソード自体も興味深いが、当時の日本の和算のレベルの高さにも驚かされる。

次々にわくわくするようなエピソードが登場するため、「もっと早くこの本に出会っていたら、子どものころ、もっと数学が好きになっていただろうなあ」と思う人も多いだろう。しかし、学生時代に苦労して公式や定理や数学の用語を覚え、それらを当てはめて問題を解くことを経験して大人になったことで、記憶の隅にほんの少しそれらが残っている。そのおかげで、セミの寿命と素数の関係を読んで感心したり、サッカーのゴールネットがハニカム構造になった理由にニヤリとできるのかもしれない。もちろん、子供のころにその魅力に気が付いた人の中には、数学の世界に進んだ人もたくさんいるだろう。

秋山氏は日常生活の中に当たり前のようにある常識や習慣にとらわれず、場合によっては自分の持っている常識を否定してみると、数学の本質の面白さが見えてくるものだと言う。本書は、数学が好きな人はもちろん、数学がどこか苦手な人にとっても、クイズを解き明かしていくような、不思議で魅力的な数学の世界いっぱいの一冊である。

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