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研究活動の醍醐味は、研究対象そのものへの興味、関心のみならず、むしろ研究を通じて出合う、さまざまな課題とどのように向き合い問題解決へと導いていくかという、自由な発想に基づく研究プロセスの中にこそあるのではないか。通読して強く感じたのが、不連続な研究プロセスにおける、問題解決と発見の喜びの営みに通底する面白さだ。
21人からなる研究者たちの名言が、実に多様で示唆に富んでいる。
「常に問題意識をもつことが重要です。いくら知識があっても問題意識がなかったら、それは知恵にならない」(百生敦さん)
「実際にやってみて、自分の目でたしかめるべきです。『バカだな』と言われても、かまわずにやる。これが実験科学者に欠かせない態度だと信じます」(藤井正明さん)
「自分が言いたいことを、相手に興味をもってもらえるように説明できることは科学者にとってもたいせつな能力です」(岩田想さん)
「予想を立てて、実験をして予想がはずれてもはずれたときこそよろこぶべきなのです。新たな発見が隠されている可能性があるのですから」(佐方功幸さん)
「新しいものをつくるときは、トラブルがつきもの。たいせつなのは、とことん思いつめること。答えは必ずどこかにあるのです」(前中一介さん)
これらは別に理系研究者に限ったことではない。むしろ、分野を超えて広く共通する名言といえるように思う。研究者の資質の共通項が仮にあるとすれば、それは研究者の間だけの独自のものではなく、むしろ他分野でも通用しうるものではないかと感じられた。それ故、研究者や研究を志す方でなくても、この本を通じて得るものは多いという認識を持った。
書籍化の話は、『JST News』連載の「ようこそ、私の研究室へ」の取材を通じて得たインタビューの内容を生かして、単行本用に編集し直そうというのがきっかけだったようだ。しかも、「ようこそ、私の研究室へ」の記事の転載ではなく、研究者としての人となり、職業としての研究者という視点から全面的にリライトを図ったという。
さまざまな研究者の生き方を「物語」として読み解くには、非常に有用かつ平易で読みやすいという実感を持った。例えば日本科学未来館の展示解説と向き合うときのように、仮に一部理解が難しい個所があっても、気にせずどんどん読み進めて全体としてなにか気づくところがあれば、本書を手に取った価値は十分あったと言えるのではないだろうか。
なお、本書で取り上げられた研究者たちの研究内容の詳細については、JST Newsの中で紹介されているので、参考にされたい。


