レポート

英国大学事情—2010年12月号「大学の持続的発展プロジェクトへの公的助成 - HEFCEによる助成イニシアティブLeading Sustainable Development in Higher Education -」

2010.12.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

【1. はじめに】

 2009年12月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)によって、「Leadership, Governance and Management Fund」の一部として、大学による持続的発展戦略プロジェクトへの助成イニシアティブ「Leading Sustainable Development in Higher Education」が公募され、2010年8月に採択された11プロジェクトが発表された。当プロジェクトへのHEFCEの助成額は、5万ポンド(約700万円)から18万ポンド(約2,400万円)と小型の助成プログラムでは、英国の大学による「持続可能な発展」への具体的な取り組みが分かるため、採択された11プロジェクトの概要を紹介する。

【2. プロジェクト採択校】

  • ロンドン大学バークベック校「ブルームズベリー環境管理共有サービス」
    • ロンドン中心地のBloomsbury地区 にある4つの高等教育機関の共同プロジェクトであり、所有する建物が排出する炭素の管理と持続的運営に関する共通の課題に共同で取り組むことを目的とする。
    • 当プロジェクトのパートナー校は、ロンドン大学傘下のバークベック校(Birkbeck College)、公衆衛生・熱帯医学校(London School of Hygiene and Tropical Medicine)、東洋・アフリカ学院(SOAS)および薬学校(School of Pharmacy)の4校であり、バークベック校が幹事校となる。
    • 共同アプローチを取ることによって、小規模な高等教育機関が直面する各種リソースの欠如を補完し合うことを目指す。
    • 持続的発展に対するカルチャーや態度を変革するプログラムを実施するためのスタッフも任命される予定である。
    • 助成額は7万5,000ポンド(約1,000万円)、期間は2010年秋から3年間。
  • ボーンマス大学・サセックス大学「持続的発展のためのリーダーの育成」
    • 当プロジェクトは、持続的発展のためのリーダーシップへの支援を目的とする。
    • ボーンマス大学とサセックス大学という、二つの異なる大学の理事やシニア・マネージメント・チームと協働することによって、持続的発展のためのリーダーシップ機能を構築および強化し、その過程を通じて得た知識と経験を同地域の他の二つの高等教育機関とも共有していく計画である。
    • 具体的には、持続的発展と排出炭素削減目標の達成のために、リーダーシップ行動に焦点を当てた、持続的発展への課題を討議するワークショップを開催する予定である。このワークショップを通じて、持続的発展に関する知識を高め、懸念の大きさを理解するとともに、カルチャー・チェンジを支援し、より多くのスタッフのコミットメントを得るための、適切なリーダーシップ行動を見いだすことを目的とする。
    • 助成額は5万8,000ポンド(約800万円)、期間は2010年9月から16ヶ月間。
  • クランフィールド大学「カーボン・ブレインプリント」
    • 当プロジェクトは、他分野の機関や組織のカーボン・フットプリントを削減させるために高等教育機関が貢献している「知的貢献度」を測定する方法を開発し、検証した上で、強固で再現可能な測定方法を普及させることを目的とする。
    • この高等教育機関による知的貢献は、カーボン・ブレインプリント(carbon brainprint)とでも名づけることができ、直接的には研究やコンサルタント活動、間接的には教育活動を通じた貢献を指す。
    • 高等教育機関の「カーボン・ブレインプリント」の定量化は、地球温暖化の緩和における高等教育分野のインパクトの測定にもなる。
    • 助成額は13万8,000ポンド(約1,900万円)で、期間は2010年8月から1年間。
  • ハーパーアダムス・ユニバーシティー・コレッジ「広大な土地を所有する高等教育機関のための炭素管理戦略の開発」
    • 当プロジェクトは、広大な土地(農地を含む)を所有する高等教育機関における、以下の活動を支援することを目的とする。
      ・キャンパス内の農業活動から発生する温室効果ガスの測定
      ・現実的な炭素換算削減目標の設定
      ・十分な情報を得た上での炭素管理計画の作成
    • そのための特別ワークショップを開催予定。
    • 助成額は約7万5,000ポンド(1,00万円)、期間は2010年8月から10カ月間。
  • グロスターシャー大学「持続可能性に向けたカリキュラムの変更:質の向上への戦略的アプローチ」
    • 当プロジェクトは、大学卒業生が持つべき技能を持続的発展への各種課題に向けて再教育し、質の保証と向上を通じた持続的発展のための教育(Education for Sustainable Development)によって、高等教育機関のリーダーシップを改善することを目的とする。
    • 具体的には、高等教育機関のシニア・マネージャーのための、実用的かつ戦略的なガイダンス・マニュアルを作成する。アストン、ブライトン、エクセター、グロスターシャーおよびオックスフォード・ブルックスの5大学がパートナーシップを組み、各大学内に「持続的発展のための教育」を定着させ、ケース・スタディーの模範となることを目指す。同時に、他の高等教育機関における変革を促進するため、品質保証エージェンシー(QAA)や高等教育アカデミーのような高等教育分野の主要なエージェンシーとも連携をとっていく。
    • 助成額は約20万ポンド(2,700万円)、期間は2010年月より1年間。幹事校はグロスターシャー大学。
  • リンカーン大学「Electromagnates」
    • 当プロジェクトは高等教育機関と地方自治体におけるエネルギー消費の改善を促すため、ゲームを含めたソーシャル・ソフトウェア・アプリケーション一式を新たにデザインし、実際に使用した上で評価まで行うことを目的とする。
    • 個人用のデスクトップ・アプリケーション(social widgets)とディスプレイを利用して、個人、グループ、コミュニティーにそれぞれのエネルギー消費量のフィードバックすることを目指す。これにより、各職場が自身のエネルギー消費量を他の職場と比較することができ、消費量削減のための建設的な競争を促すことが期待される。また、このシステムはキャンパス内の学生寄宿舎にも試験的に導入される予定である。
    • 助成額は約7万5,000ポンド(約1,000万円)、期間は2010年7月から2年間。
  • リバプール大学を幹事校とするエネルギー・コンソーシアム「高等教育分野における再生可能エネルギー発電の増強」
    • 当プロジェクトは、大学キャンパス内外の再生可能エネルギー発電技術と契約モデルを評価し、高等教育機関が再生可能エネルギー発電をより容易に利用できるフレームワークの構築を目的とする。
    • 「エネルギー・コンソーシアム」は、リバプール大学を幹事校として、ハーパー・アダムス、ランカスター、サリー大学を含む4大学で構成される。
    • 助成額は5万ポンド(約700万円)、期間は2010年6月から1年半。
  • ノーサンプトン大学「持続可能性のための共同的問題解決への取り組み」
    • 当プロジェクトは、持続可能性への諸課題の解決に向けた総体的なアプローチのために、高等教育機関が各地域の組織や公的パートナーと、いかにして効果的な協働ができるかを探ることを目的とする。
    • また、パートナーシップを持続可能性の発展の中心として位置づけるとともに、高等教育機関が「新たなローカリズムの時代のリーダーシップ」を発揮する必要性を認識することも目指す。
    • パイロット・プロジェクトとして、ノーサンプトンシャー州における持続可能な発展のための共通の目標と課題解決法を見いだし、いくつかの試行的取り組みをノーサンプトン州全域に展開できるようにする。
    • プロジェクトを通じて得られた知識と経験は、ツールキット、イベント、プレゼンテーションなどを通じて、同地域内の他機関と共有される予定である。
    • 助成額は約19万ポンド(約2,600万円)、期間は2010年10月から23カ月間。
  • ノッティンガム大学「持続可能性の概念のビジネス・スクールへの組み入れ」
    • 当プロジェクトは、社会、経済および生態面での持続可能性をビジネス・スクールの教育プログラムおよび研究や組織内の業務に組み入れて普及させていくガイダンスの提供を目的とする。
    • このガイダンスは、持続可能性の教育に熱心に取り組んでいるビジネス・スクール向けであり、当プロジェクトを通じてグッド・プラクティスの広範囲な利用方法の開発も目指す。
    • 助成額は約9万ポンド(約1,200万円)、期間は2010年9月から1年間。
  • オックスフォード大学「Midnight Oil」
    • 当プロジェクトは、オックスフォード大学内の4つの建物の24時間中のエネルギー消費量のパターンを評価し、その結果を基にした夜間のエネルギー消費量管理方法の変更、炭素排出量の削減および他の高等教育機関が利用できる事例やツールキットの開発に利用することを目的とする。
    • 助成額は約6万ポンド(約800万円)、期間は2010年9月から14カ月間。
  • スタッフォードシャー大学と大学・コレッジ環境協会「Environmental Exchange」
    • 当プロジェクトは、継続可能な発展のグッド・プラクティスの開発とその結果の共有のために、スタッフォードシャー大学が大学・コレッジ環境協会の協力の下、双方向性のウェブベース上に技術ガイダンスと事例を保存・管理する方法を開発し、稼働させることを目的とする。
    • また、当プロジェクトはWeb2.0技術を利用し、e-learning, webinars, online CPD, podcasts, ask the expertなどの新技術を積極的に取り入れる計画である。
    • 助成額は約17万ポンド(約2,300万円)、期間は2010年9月から2年間。

【3. 筆者コメント】

 HEFCEによる当イニシアティブは、プロジェクト成果を地域や他大学とも共有することを目指している。英国では、この動きが大学だけに留まらず、英国全体の利益および国民への還元のために、公的機関の間においてもベスト・プラクティスの共有の意識が近年特に強まってきている。英国の大学は、大学間の競争の時代から「競争と連携」の時代に入ってきているとも言えよう。

 ノーサンプトン大学のプロジェクト事例も、「パートナーシップ」を持続可能性の発展の中心に位置づけ、高等教育機関が「新たなローカリズムの時代のリーダーシップ」を発揮する必要性を認識することも目指すとしており、他機関とのパートナーシップの重要性と大学が地域社会に果たすリーダーシップの役割が強調されている。

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