レポート

科学のおすすめ本ー みんなが知りたい船の疑問100

2010.11.22

成田優美 / 推薦者/SciencePortal特派員

みんなが知りたい船の疑問100
 ISBN: 978-4-7973-5850-6
 定 価: 952円+税
 著 者: 池田良穂 氏
 発 行: ソフトバンククリエイティブ
 頁: 238頁
 発売日: 2010年8月25日

船は映画の舞台になり、多くの名作が生まれてきた。荒波を進む雄々しさ、帆船のロマン、豪華客船へのあこがれは特に女性を魅了する。では、船を語るサイエンスはどんな興味を喚起してくれるのだろう。

本書は第1章のタイトルに「エコ」を掲げる。例えば大型タンカーとタンクローリーを輸送量1トン当たりのエンジン出力で比較している。圧倒的に船が優位だ。船は元々燃費の良い輸送機関で、ハイブリッド船や排ガスの活用など船体そのものの特性のほか、運航における省エネも可能だ。目に見えない航路を海流や気象に応じて、いかに最短距離で効率よく進むか。それを支える先端技術と機器が次々解説されている。

著者は大阪府立大学海洋システム工学科の教授であるが、第2章「エンジン」でも、モーダルシフトという環境への視点がうかがえる。かつて日本の国内輸送の80%以上を占めた船は自動車の普及や道路整備により現在は40%ほどらしい。しかしトラックを積んで海上輸送できる船の利点を活かすことでCO2の排出が大いに減少するそうだ。さらに日本列島周辺の長距離フェリー網は、大地震のときライフライン機能を果たす、というのだ。

そして「モノづくり」の現場を知る面白さを味わう。第3章「推進」に登場する直径10メートルプロペラの製造過程に想像力が刺激される。岡山県のあるメーカーはスクリュープロペラの世界シェア30%(国内70%)という。コンピュータで数値制御して自動的に形状で切削、それを磨き抜かれた技で「曲面整形と表面仕上げ」をする。いろいろなアングルの写真が臨場感を伝える。

小中学校生を受け入れ、地域社会と交流している企業も紹介されている。その会社のウェブサイトで進水式の動画を見て高揚感がわいた。第7章の「造船・整備」では、船を中央で輪切りにして、その間に新しく造った船体ブロックを入れて溶接する工法に驚く。本当に不思議な光景だ。一方、ガスバーナーと水のホースを両手に持って鋼板を自由自在に曲げる「ぎょう鉄」作業では、巧みな職人技が発揮される。

世界最高の掘削性能を持つ地球深部探査船「ちきゅう」、砕氷船、両頭船、波浪推進船など船の多様性も示されている。沈没船の引き上げは非常に困難という話には残念な思いだが納得した。

日本は海洋国家といわれる。国連海洋法条約に基づく排他的経済水域(本書190頁参照)は世界第6位である。ただ世界トップを誇っていた造船産業は現在厳しい情勢のようだ。海外への技術移転の長期的な影響、国際競争力、後継者などニュースが気になる。本書は船をテーマにさまざまな問題を考えさせてくれる。

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