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携帯電話やパソコンで見るWebマップ、カーナビなどのデジタル地図の普及にともなって、日常生活の中で、地図を利用することが増えたのではないだろうか。それ以外にも、昔ながらの看板地図や道路地図、学校で使用した地図帳、テレビなどで見る天気予報図など、毎日あらゆる場所で、地図を目にする。
では、地図の定義とは何だろうか。本書は3人の共著であるが、吟味された50の疑問を3章に分け、ひとつの疑問に対して一人が担当する形で、解説している。同シリーズの他の書籍と同様に、カラーのイラストや写真がふんだんに使用され、地図をよりわかりやすく説明している。筆頭の著者は、大学で地理学を学び、地図会社に就職し、その後独立した。地理学を専攻していたため地図についての知識はあると自負していたが、会社では発見の連続だったという。その疑問は、そのまま第2章「地図はどうやってつくるの?」に反映されている。
いずれも面白い疑問点であるが、地図そのものが常に変化していることに気づかされる項目がいくつもある。そのひとつに地図記号がある。ほとんどの人の場合、地図記号を学んだのは小学生のころだろう。テストのために一生懸命暗記した人もいるのではないだろうか。それが新しく増えたり減ったりしているという。記憶に新しいところでは、2006年に公募し、老人ホームと風力発電の風車の記号が追加されている。逆に時代の流れとともに消えていく記号もある。例えば、電報電話局の記号は、日本電信電話公社が民営化されてNTTになったため、廃止された。郵便局も民営化されたため、慣れ親しんでいる「〒」の記号も、いずれ廃止されるかもしれないという。
また、何といってもデジタル地図の登場は、作る側にも利用する側にも大きな変化をもたらした。作る側の変化の一つは、作成方法だ。熟練した職人が手作業で製図していたものが、IT化されて、コンピュータでオペレーターが作成するようになった。このため、地図作成業界への新規参入の壁が低くなった。二つ目は、デジタル化で何段階もの情報を盛り込むことが可能になったため、ユーザーの要望に沿うような高い情報収集能力が必要になったことだ。例えば、紙の地図であれば、レストランを示すときに場所と店名だけで良かったものが、営業時間や定休日、駐車場の有無などその背後にある情報も盛り込む必要が出てきた。情報の更新のスピードも格段に速くなっている。また、ハザードマップやカーナビなど、新しいタイプの地図も登場するようになった。使う側も利用方法が大きく変化している。一昔前は、地図は印刷されたものを書店で購入するものであった。しかし、デジタル地図が登場しインターネットが普及すると、地図はいつでも手に入り、場合によっては「無料」で利用できるものになった。
最後の50番目の疑問は、「地図って、結局なんなの?」となっている。伝統的な地図の定義は何なのか。本書で示す地図の定義は何なのか。そして、デジタル地図が普及した現在、地図をどのように利用することができるのか。そして、地図の未来はどこにあるのか。この50番目の回答に著者の思いが込められている。
身近にあふれている地図に対するさまざまな疑問は、共感するものが多く、その解説も明瞭だ。普段利用の頻度の高い人や将来地図にかかわる仕事をしたいと考えている人はもちろん、それ以外の人にとっても、興味深い一冊になるだろう。