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ウイスキーのハイボールが流行している。今回の火付け役となったメーカーでは、特定の商品について出荷を制限するというニュースが先日流れた。理由は、原酒が足りなくなるため。そう、ウイスキーは、人気が出ても生産量を急に増やすことはできない。何年もの熟成期間が必要な、時間のかかる酒なのだ。
では、ウイスキーはどのようにして作られているのか。今まであまり馴染みのなかった人でも、気になるところだ。ウイスキーは、原料と蒸留方式によって大きく2つに分けられる。大麦麦芽を原料として単式蒸留器で蒸留するモルトウイスキーと、大麦麦芽のほかトウモロコシや小麦などの穀類を原料として連続式蒸留機を使うグレーンウイスキーである。原料である穀類の糖化、発酵、蒸留、貯蔵、そして熟成という工程を経て、ウイスキーは作られる。穀類自体が持っている酵素のはたらき、酵母による発酵、錬金術とともに大きく発展した蒸留技術、適度な温度と湿度の環境の下での貯蔵によるさまざまな化学反応とたる材からの成分抽出。長年積み重ねられてきたこれらの技術は、まさに科学の宝庫であることに気づかされる。
本書は、大きく3章に分かれている。第1章は、ウイスキーの科学。起源から始まる「ウイスキーとは何か」から、前述の製造工程までが、分かりやすく説明されている。そして特徴的なのは、この章のほぼ全ページを飾っている美しい写真の数々である。蒸留所や仕込み水の川、作業工程の様子やさまざまな装置の写真がふんだんに盛り込まれている。麦芽の成長停止のために燃やされるピート(泥炭)のにおいや麦汁の香り、そして蒸留直後には無色透明な液体が、まろやかで風味豊かな琥珀(こはく)色の液体に変化していく貯蔵庫の様子など、まるで蒸留所を実際に見学している錯覚に陥る。
第2章は、筆者がその魅力に大いに影響を受けたというモルトウイスキーの産地、スコットランドの蒸留所の紹介だ。スコットランドでウイスキーの記述があるのは、今から500年以上も前のことであり、すでに稼動停止や閉鎖している蒸留所もあるという。本書では大きく6つの地域に分けて、現在稼動中もしくは稼動準備中の蒸留所106カ所についてABC順に紹介している。所在地や創業年などの情報に加えて、ボトルのイラスト、歴史や風味の情報などが丁寧に記載されている。数が多く初心者には好みの1本を探すのは大変そうだが、地域ごとに「BEST Whisky」が選ばれている。それらを飲んでみると、自分の好みの傾向が分かるだろうという仕組みだ。
最後の第3章は、ウイスキーのおいしい飲み方。温度や水の割合などで、味や風味が変わるという。自分に合ったスタイルの飲み方を探すのも面白い。
モルトウイスキー、とりわけ単一の蒸留所で作られたシングルモルトウイスキーには、それぞれの蒸留所のこだわりが個性と多様性を与えているという。本書を通して、原材料や詰めるたるへのこだわりなどを垣間見ることで、モルトウイスキーの奥深さや魅力を新たに発見でき、「命の水」を語源に持つウイスキーの味は、さらにおいしく感じられるかもしれない。