レポート

科学のおすすめ本ー 半導体物性何でもQ&A -対話から生まれた半導体教本-

2010.06.28

推薦者/SciencePortal特派員

半導体物性何でもQ&A -対話から生まれた半導体教本-
 ISBN: 978-4-06-155785-7
 定 価: 2,600円+税
 著 者: 佐藤勝昭 氏
 発 行: 講談社
 頁: 175頁
 発売日: 2010年6月15日

これは教育の大切さを深く知り、かつ公共心に富む研究者にして初めて可能な珍しい本ではないかと思われる。

著者は日本放送協会基礎研究所で研究生活を送った後、1984年から2007年春まで東京農工大学教授を務めた。大学での授業の終了15分前に質問用紙を配り、翌週の授業の初めに質問に答えることを常としていた。2000年6月、それまでに蓄積されたQ&Aを項目別に整理し「物質の不思議Q&A」のコーナーを研究室のホームページに設けたところ、他大学の学生や企業の研究者から質問が寄せられるようになった。メールで寄せられた質問とそれに対する答えを「物性なんでもQ&A」というコーナーで紹介することをその年の10月から始め、大学退職後もサーバーをプロバイダーに変えて続けている。

本書にはこれまで公開した1,200件ものQ&Aから選んだ36の質問とそれらの関連質問に対する答えが載っている。半導体、金属、光、磁気など物性に関するさまざまな質問を引き受ける駆け込み寺のような役割を一人で続けてこられた秘訣(ひけつ)は、何か。質問と答えのページの間にところどころ挟まれている「コラム欄」から伺うことができる。

「学校で出た宿題・課題の解答を求める」「質問内容に一般性がなく特定の業務内容の詳細についてコンサルタント的な見解を求める」「図書館で通常のハンドブックや辞典を引けば出ている」「調査のための時間や費用がかかる」たぐいの質問には答えられないことを、サイトに明記しているのだ。

とはいえ、サービス精神旺盛な著者である。科学技術振興機構で「次世代デバイス」研究プロジェクトの研究総括を務める現在、ある大学院生の疑問に応え、その研究室まで出向いて装置を調整し正確な測定データが出るようにしてやった、といったエピソードも紹介されている。

質問と答えについてはこの分野に相当の知識を持つ人でないと難しいと思われるが、インターネット時代の理工系教育に関心がある多くの人たちに貴重な示唆を与える本と言えそうだ。

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