レポート

科学のおすすめ本ー 31文字のなかの科学

2010.05.27

影山麻衣子 / 推薦者/SciencePortal特派員

31文字のなかの科学
 ISBN: 978-4-7571-5069-0
 定 価: 1,800円+税
 著 者: 松村由利子 氏
 発 行: NTT出版
 頁: 212頁
 発行日: 2009年6月26日

短歌は時に現代科学の断片を映す。短歌は31文字の中に、自由に言葉を選べる形式である。その自由さが許容する中に、科学の言葉がある。例えばラテン語の学名、雪の結晶分類に使う用語、天体の呼び名、あるいは「ランゲルハンス島」という名の臓器…。そうした言葉は短歌の中でそのユニークな語感を際立たせる。さらに驚くべきことは、他種の言葉との組み合わせの妙である。短歌は言葉同士を組み合わせ、事象を斬新な切り口で提示する。示された視点で科学を見直すのは、読者にとって新たな世界観との出会いでもある。

「科学者とは別の形で現代科学を表現すること、それも短歌の一面だと思う」。著者はそう語る。本書は科学を題材とした現代短歌を選んで編まれた。著した歌人は新聞記者の経歴を持つ。彼女が科学記者となったのは臓器移植法案が報じられていた時期で、脳死したドナーの報道にもかかわった。この記者生活のエピソードを加えながら、短歌を読み解いていく。

科学技術のニュースはマスメディアで流れ、人々の記憶に残る。短歌にそれが描き出されることがある。時代を反映し詠まれるのは、例えば他者へと受け渡される臓器であり、クローン羊の死である。また日常の中に溶け込む科学技術が、それとは意識されずに詠まれることもある。こうした短歌を読めば、私たちの営む世界の端々が、科学と結びついていることに気付かされるだろう。

「研究者だけが科学の発展に携わるのでなく、一般の人が科学への関心を抱き、ある時は心躍らせ、あるときは警戒することで、科学の世界はもっと豊かになるに違いない」

そう考える著者が、短歌を通じて科学の魅力を紹介したのが本書である。科学ジャーナリスト賞2010受賞作だ。

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