レポート

科学のおすすめ本ー 知らないと怖い血管の話 心筋梗塞、脳卒中はなぜ突然起きる?

2010.04.23

成田優美 / 推薦者/SciencePortal特派員

知らないと怖い血管の話 心筋梗塞、脳卒中はなぜ突然起きる?
 ISBN: 978-4-569-77763-4
 定 価: 820円+税
 著 者: 高沢謙二 氏
 発 行: PHP研究所
(PHPサイエンス・ワールド新書)
 頁: 221頁
 発売日: 2010年2月19日

ひとりの人間の血管をすべてつなぐと約10万キロメートル、地球の2周半に及ぶといわれる。循環器内科の教授である著者は、本書で心臓をダム、毛細血管を田んぼに例え、微細な血管のメカニズムを説明している。

ダムから送り出された水が、枝分かれする水路を通り抜け、田んぼに届くころには穏やかな静かな水がゆったりと流れていく…。

もし流れが滞ったらどうなるのだろうか。直径千分の1ミリの細い血管でも、やがては心臓に大きな影響をもたらすことがあり得るようだ。

厚生労働省の人口動態統計(2008年)によると、日本人の全死因の2位、3位は心疾患、脳血管疾患である。本書の副題に挙げられている心筋梗塞(こうそく)と脳卒中はどちらも自覚症状がなく突然起こるそうだ。共通する要因は「血管」。著者は血管をめぐるさまざまな知識の大切さを訴える。

本書をさらっと俯瞰(ふかん)する。序章で動脈硬化の悪循環、血管の3変化(硬くなる。壁が厚くなる。通り道が狭くなる)を教えられる。血管を硬くする4つの危険因子も要チェックだ。第1章では心筋梗塞の具体的な描写に驚かされる。心臓の筋肉が紙のように薄くなり破裂の危険が生じるとは。狭心症や心不全の違いも覚えておきたい。

第2章は62頁にわたり、実に詳細に血圧について書かれている。血圧を通して身体が発信するメッセージを正確に読み取るために、例えば日本高血圧学会のガイドライン、数値の分析と評価、対処法など最新の知見が示されている。家庭で測るときの注意点、姿勢や適した時間、機器の種類や特徴といったアドバイスも実用的だ。ちなみに現在は、脈圧(血圧の上の値から下の値を引いた数字)の大きさが危険度を判断する重要なポイントらしい。健康情報でおなじみの「善玉・悪玉」の語源まで紹介されている。

第3章に著者が世界に先駆けて考案した「加速度脈波加齢指数」が解説されている。1998年、米国高血圧学会の学会誌『ハイパーテンション(高血圧)』8月号に発表、海外で大きな反響を呼んだ。以来「血管年齢」の第1人者としてメディアからも注目されている。

第4章から最後の第6章までは、高血圧の予防やコントロールほか、幅広い内容が続く。気をつけたいのは、「生活習慣病については別の視点も欠かしてはいけない」「遺伝や体質の影響で薬が必要になる人もいる」と明記していること。生活習慣病という名称が持つイメージを考えさせられる。

ただ、日本の若い世代の食生活の欧米化(脂肪のとり過ぎ)に対して、米国の白人に多い労作性狭心症(注)や心筋梗塞の増加が危惧(きぐ)されることをぜひ心に留めたい。降圧薬の服用や減塩のこつ、栄養バランスなど多岐にわたる教えは、体調に不安のある年代はもちろん、若い人、専門職を目指す学生にも大いに実践されてほしい。

本書ではしばしば自然界がたとえ話の背景になっている。私たちを取り巻く環境に思いをはせ、視野が広がっていく。テレビ番組「世界一受けたい授業」に出演したこともある著者ならではの魅力だ。そして血管・血圧の改善に励む読者に素敵なエールを送っている。「意志の上にも3カ月」

「3カ月坊主」にならないように何度でも読み返そう。

(注)労作性狭心症=運動や身体を動かしたときに起こる狭心症

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