レポート

科学のおすすめ本ー ママ、南極へ行く!

2010.04.21

影山麻衣子 / 推薦者/SciencePortal特派員

ママ、南極へ行く!
 ISBN: 978-4-07-271644-1
 定 価: 762円+税
 著 者: 大越和加 氏
 発 行: 主婦の友社
 頁: 224頁
 発売日: 2010年3月19日

南極の魚は天ぷらにするとうまい。食べると骨がパリパリしている。海洋生物学者である著者の実体験だ。実は南極の海の生物は、骨や甲がもろい。だから魚の骨を口に入れると軟らかくて美味しいし、貝殻やウニのトゲは壊れやすい。天ぷらにした魚はボウズハゲギスやショウワギス。著者が仕掛けた網にかかっていた研究材料だ。その研究材料たちを食べながら「なんでこんなに南極の生き物はもろいの?」「骨を硬くする必要がないの? それとも硬くできないの?」と著者は思いを巡らす。食べることからサイエンスがスタートすることだってあるのです、とは著者の言だ。本書では南極の海で生き物を調べる面白さや、南極へ旅した船での出来事が記されている。さらに著者が南極へ旅立った後、母親不在となった家庭の様子も描かれる。

著者は『日本ではじめて南極へ行ったお母さん』になった研究者である。普段は日本の大学で研究をしている。毎日が大変だ。子どもの世話をして家事をして、その上、大学で力いっぱい働くのだから。そして南極で働くのはなおさら大変なのだ。日本を出て子どもと離れるのは心配だし、子どもの世話を任された夫はひどく疲れてしまうだろう。

南極へ単身赴任する話を目の前にした時、著者の頭に浮かんだのはそんな大変さだった。しかし「行きたい! 南極の氷の下の海底の生き物に会ってみたい!」という気持ちも胸にわき起こっていた。

著者は学生のころからずっと海の生き物を調べていたし、今はそれを仕事にしている。だから南極に行って知りたいことがあった。

「南極のような冷たい海の底で、生き物がどんなふうに生きているのだろう? それを調べれば、世界中の誰も知らないことが分かるかもしれない」

夫は「行ったほうがいい」と勧めた。同業者である夫は、南極行きがチャンスだと知っていたからだ。

著者は「私のような研究者がきちんとした仕事をしていこうと思ったら、周囲の協力なしには絶対、無理です」と話す。まだ小学生の子どもたちは母親のいない生活をやり遂げたし、小学校のクラスメートや先生も南極行きを応援してくれた。祖父も孫たちの生活をサポートした。本書で特に伝わってくるのは、子どもを持つ研究者の仕事を支えているのが、信頼を持って子どもを預けられる人々だということだ。

研究という仕事や海の生き物に興味のある人、南極について知りたい人、それに面白い話を読みたい人は、この本を手に取ることを勧める。分かりやすく楽しい本だし、時間をかけずに読み切れるから。

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