レポート

科学のおすすめ本ー 暗算力を身につける

2010.04.07

神村章子 / 推薦者/SciencePortal特派員

暗算力を身につける
 ISBN: 978-4-569-77828-0
 定 価: 840円+税
 著 者: 栗田哲也 氏
 発 行: PHP研究所
(PHPサイエンス・ワールド新書)
 頁: 229頁
 発売日: 2010年3月19日

「子供たちの学力が低下している」「今の子供は計算が苦手」などと言われている中で、「計算力」ではなく、「暗算力」という本書のタイトルに、つい惹(ひ)かれてしまう。

最近、テレビや新聞などで、2011年度以降に新学習指導要領が施行されることが報道された。いわゆる「ゆとり教育」の見直しである。その一因になったのが、経済協力開発機構(OECD)による生徒の学習到達度調査(PISA)の順位だ。各国の順位を見ると、この10年で日本は大きく後退しているように見える。そこで、理数系科目を中心とした学習内容が増えることになった。ただし、大幅に増える学習内容に、現場の学校や子供たちが混乱すると、危惧(きぐ)されているのも事実である。

著者は、これまでに予備校や塾でたくさんの子供たちを見てきた。その中で気がついたのは、子供たちの学力に極端な差が生まれる原因のひとつが、暗算ができるかどうかということだ。現在の小学校での計算は、筆算が主流となっている。筆算は、確かに計算の仕組みを理解するのには優れている。一方、暗算は、単に計算する手段ではなく、頭の中で数やイメージを操るものだという。答えを導く方法はいくつもあり、その背景に目を向けると数のしくみの面白さに気づく。何よりも、計算が速い。

本書は、読み進めていくうちに、暗算の面白さやその華麗な技法に引き込まれていく。最初は簡単な四則計算から、そして少数、分数、連立方程式、因数分解、無理数…とレベルが上がっていく。計算問題なので、導かれる答えはひとつだが、その考え方は実にたくさんある。

例えば、79+47は、

  1. 十の位と一の位に分ける:79+47=(70+40)+(9+7)=110+16=126
  2. 最初に79に1を足して80とする:79+47=(79+1)+47-1=80+47-1=127-1=126
  3. 47を1と46に分ける:79+47=79+(1+46)=80+46=126 などが考えられる。

このような数字の面白さに気づくと、素早くすらすらと暗算で解いていく快感を味わうことができる。

各項目の最後には練習問題が載っており、ついつい挑戦したくなる。解説(あくまでも問題のやり方の一例)で答え合わせをし、一喜一憂している自分に気がつく。さらに、練習問題だけでは物足りない読者のために、載せ切れなかった問題が、第1章から第3章に対応する形で、Web上に掲載されている。このように書籍とWebがタイアップして、その幅を広げる面白い展開をよく見かけるようになった。本書は、あらためて算数や数学を理解する基礎をつくりたい人、わが子にヒントを与えたい親、そして、中高生であれば自ら読むのもよいかもしれない。

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